二人の15年
「もうここに来て何年になる?」
先に口を開いたのはアキトだった。
「なんだ急に?……う~ん。十五年になるか……」
一瞬怪訝な顔を見せたシバだったが、すぐに表情が和らいだ。
「そうだ。この世界に引き込まれて十五年。まあ、よく生き残ったと思う」
とアキトが言う通り、彼ら二人はこの世界に何の前触れもなく唐突に引き込まれた過去を持つ。
そう、彼ら二人は同時にこの世界に転移して、今ここにいる。
その当時二人はまだ同じ学校に通う大学生だった。
「だな……本当に月日が経つのは早いな」
シバはしみじみと過去に起こった出来事を思い出していた。と同時に、ここ最近昔の事を……特にこの世界に来る前の世界の事を考えなくなっていた事にも気が付いていた。
「ああ、特にこの世界は早く感じる」
アキトも同じように過去の事を思い出していた。
「それは歳のせいと違うか?」
「まあ、それもあるかもな」
とアキトは笑った。
シバも表情を緩めて
「とにかく、今回の件はそれほど気に病む事ではないと思うんだが……」
と話題を元に戻した。
「モルタニア帝国が仕組んだ訳ではないと?……単なるテンプレだと?」
アキトが聞き返した。
「そうだ」
二人が元居た世界の知識や技術は、この異世界では驚異の知識でもあった。
特にこの飛空艇はその未知の知識と技術の塊でもあった。どこの国も喉から手が出るほど欲しい技術だった。
アキトの言葉に愁いがあったのは、今回の出来事がこの飛空艇に乗り込む為の口実ではないかと危惧していたからだった。それをシバは否定した。
「ふむ……その根拠は?」
とアキトは訝し気に聞き返した。
「今のモルタニアの皇帝は?」
今度はシバが聞き返した。
「フレデリック三世だ……」
「だったらお前も分かるだろう?」
「俺もそれは考えた……フェリーはこちらに好意的だ。俺たちとは浅からぬ縁もある。そもそも一緒に旅に出た仲間だ。しかしあいつとは、もう何年も直接会ってないだろう?」
アキトはまだどこか引っかかるようだ。しかし皇帝の名前を愛称で呼ぶ位には親しいようだ。
「ああ。その通りだ。だから俺も少し気になったんだが……まあ、あいつの事だから大丈夫だろう」
とシバは自信ありげに言った。
「それは、勘か?」
「そうだ。俺の勘だ」
シバはきっぱりと言い切った。
「お前らしいな」
アキトはそう言って薄笑いを浮かべた。
「ああ、そうだ。勘だ。ま、絶対的に何の問題もないとは言えないが……あいつの性格からしてこんな手の込んだ事はやらんと思う。それに……」
とシバが話を続けようとしたが、それを遮るようにアキトが
「この飛空艇の技術はどこの国も欲しがっているからな。特に飛行エンジンと三連装砲の技術は欲しくて仕方ないだろう……だから用心する事に越したことはない……と言いたいが、相手がフェリーの娘だからな。俺も杞憂だと思いたい」
と表情も変えずに言った。
「そうそう、奴はそんな回りくどい事をしない。皇帝になって立場が変わったとしても、自分の娘を使ってまで調べるような事はしない。その前に本人が直接聞きに来るって」
とシバは笑った。




