乗艦
続いてダミアンは
「客室は今からご案内します。艇内は客室フロアであれば自由に移動、お使いいただいて結構ですが、それ以外のフロアは立ち入り禁止となっておりますのでご注意ください。何かあればお近くの客室乗務員までお声がけください」
と説明した。ちなみにここで彼の言った客室乗務員とは、この飛空艇のクルーの事で通常は甲板員であり砲術手だったりする。
「他のフロアに入られては困る事でもあるのかな?」
とフィリップ・スミス少佐が薄笑いを浮かべて聞いた。少し嫌味も入っているようだった。
「はい。その通りです。一応この飛空艇は要人警護のための武装もしておりますので、機密区間もございます。ご協力よろしくお願いします」
とダミアンはにこやかに答えた。慣れたものである。もっとも勝手に客室区域から他のフロアに入った場合、飛空艇から放り出されても文句は言えないのがこの世界であった。ある意味、『力こそ全て』という世界でもあった。
「それではご乗船下さい」
とダミアンは最後まで朗らかに案内を終えた。
ブリアイル王国連合の三人のゲストは黙って乗艦していった。
その後をダミアンが続いて乗艦していった。
いつの間にかカクセール伯爵のすぐ隣に立っていたシバが、
「フィリップ・スミス少佐は工兵部隊あがりですね?」
と艇に乗り込む三人を見つめながらカクセール伯爵に声を掛けた。
「うむ。よく分かったな」
とカクセール伯爵は少し驚いたような表情を見せて言った。
「そりゃね。軍人さんを乗っける時は一応経歴は調べますよ」
とシバはカーゴドアを見つめたまま視線も合わさずに言った。他国から見ればこの飛空艇ミカサは、最新鋭の航空戦闘艦以外の何物でもなく、機密の塊のような艇だった。
「彼にとってみれば興味の塊の中に入っていくようなもんですね。すでに目つきが違っていますよ」
とシバは口元に笑みを浮かべて言った。まるで『盗めるものなら盗んでみろ』とでも言いたげな笑みだった。
「かもしれぬな。それよりも今回も面倒を掛ける」
と伯爵は軽く頭を下げた。
「いえいえ。提督には色々と借りがありますからね」
とシバは視線をカクセール伯爵に向けて笑って言った。シバのいう『借り』とはブリアイル王国連合の航空戦闘艦を三隻も撃沈した事を指していた。偶発的な出来事だったとはいえ、流石に軍艦三隻を落としたのはやり過ぎだったとシバも少し後悔していた。それを上手く穏便に済ませてくれたのはこのカクセール伯爵だった。
その恩をシバは忘れてはいなかった。
「それでは、私はこれで。久しぶりにトウイの国へ行けるのが楽しみですよ提督。手土産は『米の酒』で良いですか? それともそれに合うおつまみにしましょうか?」
「うむ。よしなに頼む。できれば両方がありがたい」
とカクセール伯爵は表情を変えずに言った。
「承りました。でもね、提督の好みまでは自信はないですよ……後で文句言わないでくださいね。それが嫌ならね」
とシバは笑うと踵を返して飛空艇に乗り込んだ。
暫くして
「扉を閉めよ」
とアキトが命令するとシルフがカーゴドアを閉じた。
軽い金属音と共に飛空艇は垂直に上昇していった。そして静かに城を後にした。




