認識する
その後、ゴブリンやコボルトの類が出てきては、マリアの逆鱗に触れて一瞬でそれらは灰燼と化していた。
ただ十階層が近づくにつれて現れるのがスケルトンやアンデッド系のモンスターが増えてきた。
それらにも遭遇した瞬間にクロードやブラウンは瞬殺していた。
「そんなに慌てなくて良いのに。私たちにも戦わせてよ」
とソフィアがクロードに不満気に言った。
「あ、そっかぁ……じゃあ、次はソフィアとマリアでやってみて。そんなに強くもないから大丈夫だと思うけど」
とクロードはあっさりとソフィアに前衛を任せた。
――そんなに強くないならさっさと戦わせてくれても良かったんじゃないの?――
と口には出さなかったがそんな不満をソフィアは少し抱いていた。
しばらく歩くとワイトが一体出て来た。
クロードは約束した通り前に出ずにソフィアに任せた。
ソフィアはじりじりとワイトに近づいて行った。マリアが念のためにソフィアにバフを掛けた。
――あれ? 何か声がする……――
ソフィアは目の前のワイトが、何かを呟きながらこちらに近づいてきている事に気が付いた。
「……俺は……こんな……姿になりたくて……なったんじゃない……早……く、こ…殺して……くれ……」
とソフィアの耳にワイトの声が聞こえた。
ソフィアは我が耳を疑った。思わず後ずさりしてしまいワイトから距離を取った。そして振り返りクロードの表情を窺った。
「そうだよ。そいつも元冒険者の成れの果てだよ。それに声まで聞いちゃうと、どうしても鈍るでしょ?」
とそっけなくクロードは言った。クロード達は散々このダンジョンに潜っているのでこのダンジョンの厭らしさを熟知している。
それ故にクロードはなるべくソフィアに精神的なプレッシャーを与えないようにとブラウンと二人で対峙していたが、いつまでもそういう訳にはいかないなとも思いながら戦っていた。
後ずさりしながらソフィアはワイトとの距離を保っていた。
良く見ればそのワイトの姿は薄汚れていてボロボロだったが、明らかに冒険者の装備を身に着けていた。
――クロードの言った通りだわ。目の前にいるワイトは元人間だ……――
そう思うとソフィアの剣を握る手が鈍った。
――人としてまだ意識はあるのか? それを斬るのか?――
ソフィアに迷いが出た。それはマリアも同じだった。
「あ、そのワイトに生前の記憶や感情は無いからね。あの呟きは奴らの罠なので気にしたらダメだよ。それとね。早く終わらせないと生命力を持っていかれるよ」
とクロードがソフィアの考えを見透かしたように声を掛けた。
「え?」
「そいつが声を聞くたびに、そいつの相手をするたびに生命力を削られるぞ。気が付いたら膝から崩れ落ちていたなんて事になるからな。そうなったら次に落ちるのはソフィア、あんたの首だ」
とブラウンがソフィアのすぐ背後に来て言った。
「え?」
「え? じゃない。さっさと斬れ!」
ブラウンがしびれを切らしたように叫んだ。
その声に驚いて思わず
「えい!!」
ソフィアは気合を入れ直してワイトを叩き斬った。
斬り捨てた姿勢のまま肩で息をするソフィア。
そのすぐ脇にクロードが立って声を掛けた。
「ここは『嘆きの迷宮』って言ったでしょ。なまじまともに相手をすると精神と生命を両方持っていかれるよ。だから僕たちは有無を言わさずに叩き斬っていたんだよ」
「そうなんだ……」
ソフィアはその声に我に返ったように背筋を伸ばしてから剣を鞘に納めた。
ステイタスを見てみると明らかにHPが減っていた。
それを見てソフィアは改めてこのダンジョンの厭らしさを認識して
「ふぅ」
と大きく息を吐いた。




