心が折れる
その時、フローラがソフィアの耳元で
「この二人は、そのお部屋の中で互いに『俺を殺してお前が出ろ!』って言い合っていたのよ」
と笑いながら教えた。
「フローラ! 余計な事を言うな!!」 「恥ずかしいから黙ってろ!」
とブラウンとクロードは耳まで真っ赤にして怒鳴った。
「ふぅん。隠さなくても良いのに」
とソフィアはにっこり笑って
「そういう二人って素敵だなぁ」
と満面の笑みで背後から抱きかかえるように二人の肩に手を置いた。
ブラウンが
「ふん!! くそ!! 今思い出しても腹が立つ……そうなんだよなぁ……あの時扉が開いてシバとアキトの旦那に、ネタ晴らしをされた時が一番心が折れたよな……」
と呟いた。
「そうだったなぁ……本当にあれが一番心が折れた。あの二人のドヤ顔だけは二度と思い出したくない」
とクロードも力なく呟いた。色んな意味で心が折れるダンジョンであった事は間違いないようだ。
「どういう事?」
とソフィアは聞き返した。
「シバに『この部屋は一人で入れば何も起こらないんだよ。元々一人だと何事も無く出てこれるんだよ』って教えられた。でも新人冒険者が一人で入ったら、モンスターに間違いなく殺られてしまうけどね」
――中途半端にここの魔獣は強いんだよな――
とクロードは心の中で舌打ちしながら無表情で答えた。
「え~!!」
当たり前だと言えば当たり前だが、予想外の答えにソフィアとマリアは驚きの声をあげた。
「それにさ、種明かしされてからもう一度、日を改めて俺は一人でこの部屋に再び放り込まれたけど、何もないと判っていてもこの部屋って気持ち悪いんだよなぁ」
と忌々し気にブラウンは答えた。取り敢えずは気を取り直したようだった。
「そうそう。あの二人は攻略済みだったからね。本当に今思い出しても腹立たしい。あれは本当に心が折れたわ」
とクロードもブラウンと同じように顔をしかめながら言った。
それと同時に二人とも
『まだ第一階層だぞぉ。ちょっと考えたらクリアできるに決まっているだろう』
と愉快そうに笑うシバとアキトのドヤ顔を思い出してムカついていた。
「そうなんだぁ……あの二人はどうやって切り抜けたんだろうね」
とソフィアは素朴な疑問を口にした。
「あの二人だからね。どんな手を使ったか聞くまでもないよ……力業で終わらせたって……」
とクロードが吐き捨てるように言った。そう彼ら二人はこの扉を唯一内側から破壊して出て来た冒険者であった。
因みに既にシバとアキトのチートはこの件もあり、この世界では周知の事実となっている。
「でね、しばらくたってから聞いた話なんだけど、実はあの二人って懲りずに何度もこの部屋を試して『一人で入ったら大丈夫』っていう攻略法を見つけたらしいんだけどね……ただ二人をしても、『なんだ……そんな事か、とその攻略法を見つけた時が一番心が折れた』って言わしめたダンジョンなんだよ。ここは……」
「あの二人でも心が折れる事があるんだ……」
とソフィアとコーネルは顔を見合わせてため息をついた。
「それ以外にも低階層にあるだけあって、他のパーティが扉を開けたら出られるとか割と簡単に抜け出せる攻略方法もあるんだけど、知らないとパニックになるからね。特に初心者は……殺し合っている最中に扉が開いた……なんて笑えない話もあるぐらいだからね」
「本当にね。それは嫌だわ」
とソフィアはうなずきながら
――なんて嫌らしい罠なんだろう。私が前世でやっていたクソゲーでも、そんなえげつない設定は無かったわ――
と思い返していた。
「今はあの二人が攻略法をギルドに伝授したので、誰もここでは心が折れる事は無いけどね……という事で、ソフィアも一人で入ってみる?」
と言ってクロードが扉を押し開けた。
「ううん。いい。一人は遠慮しとく」
と答えながらも
――これはメンタルやられるなぁ――
と思い始めたソフィアだった。




