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皇女殿下の飛空艇  作者: うにおいくら
第1章 炎龍退治

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炎竜退治

 シバはその姿を見上げながら


「面舵一杯!! 傾斜角右45度で回りこめ!」

と叫んだ。


 ショーンが思いっきり操縦桿を右側に切り、そのまま一気に引き上げた。

機体が傾き軋む。重力石の影響で軽減はされているが、それでもある程度の重力が身体にのしかかってくる。

ドラゴンに向かって飛空艇が大きく弧を描いて回り込んだ。右舷前方頭上に炎龍の姿が近づいてくる。炎龍はまだワイバーンに気を取られて、下方から近づいてくるこの飛空艇に全く気が付いていなかった。


 飛空艇の最上部に位置する主砲の三つの砲身が同時にゆっくりと仰角を上げながら回転すると、その砲身を炎龍に向けた。


 調理場ではアイリスとヤンが大鍋の蓋を押さえていた。

「バブルは間に合わん!! 押さえこんで何としても晩飯を死守しろ!!」

とアイリスが叫んでいた。急な戦闘で全ての調理器具の蓋を固定できなかったようだった。


「目標との距離千!! 更に近づきます」

ショーンが叫んだ。

飛空艇はドラゴンに向かって回り込むように近づいている。この急旋回で飛空艇には更に重力がかかり軋む音が聞こえ始めた。


「うむ」

シバは炎龍から目を逸らさずにうなずいた。


「距離、八百!!」

ショーンが叫んだ。


 伝声管から

「照準よし! いつでも行ける!」

とカーンの声が聞こえる。


「まだだ」

シバは双眼鏡を覗き込んだまま言った。


更に飛行艇は炎龍に近づいていく。


「距離、六百!」

ショーンが叫んだ。

シバは無言だった。


「距離、四百! クロードが離脱します!」

とショーンが叫んだ瞬間


「撃て!!」

シバが伝声管に怒鳴った。


 飛空艇の主砲、三連装砲が爆音と同時に火を噴いた。

すぐさま伝声管から


「弾着!」

とカーンの声が聞こえた。

弾丸は無防備にさらけ出されたドラゴンの腹に寸分違わずに命中した。同時に一発はドラゴンの左腕も吹き飛ばした。もげた腕が地上に落下していく。


 炎龍は身体をよじり身もだえしながら浮遊島にゆっくりと落下していった。

シバはその姿を操縦席から黙って見ていた。

飛空艇は大きく弧を描くように浮遊島をかすめて旋回し高度を上げていった。


 再び伝声管からカーンの声が響いた。

「艇長! もう一発食らわそうか?」


 浮遊島は既に飛空艇の眼下はるか後方に過ぎ去っていった。

シバは操縦席の窓から見下ろし確認しながら


「いや、もう大丈夫だろう。流石は砲術長だ。よくやった。後はクロード達が何とかするだろうから、しばらくこのまま待機だ」

と伝声管に向かって言った。


「ちっ! もう終わりか」

と伝声管からカーンの残念そうな声が聞こえた。


 シバは伝声管の蓋を閉じると、ショーンに

「もう少し高度を下げてくれ。慌てる必要はない。ゆっくりと回り込んで島に近寄ってくれ」

と命令を下した。


「了解。高度下げます。島の南東部平原に近づきます」

とショーンは復唱した。その声からはさっきまでの緊張感が解け、ほっとした気持ちが伝わってきた。


「どうやら終わったらしいな。あの距離で喰らったら堪らんだろうな」

シバは操縦席の窓越しに浮遊島を見ながら呟いた。島の草原にドラゴンが横たわっている姿が見えた。

クロード達がとどめを刺したようだ。


「みたいですね。どうします? 降りますか?」

ショーンが聞いた。


「うむ。降りよう」


 シバは伝声管の蓋を開けてまた叫んだ。

「戦闘配備解除、着陸準備急げ。クロード達を回収する!」



 飛空艇はゆっくりと高度を下げて島の外れの草原に垂直に静かに着陸した。

そこには四つの人影があった。

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