カタリーナの指摘
それを見送りながらカタリーナがシバの隣に立った。
「お主はいつからこれを知っていた?」
とシバに尋ねた。
「何の事でしょう?」
とシバは惚けて見せたがカタリーナには通用しなかった。
「惚けるな! ヨハンまで巻き込めとは言ってないぞ!」
とカタリーナは声を荒げて詰め寄った。今回の亡命に関してカタリーナはフェレデリック三世とシバに話を持ち掛けた。その時はヨハン三世に『亡命』の計画は伝わっていなかった。
「俺もそこまで頼まれていない」
とシバは冷静に表情も変えずに応えた。
「だったら何故?」
「フェリーだよ」
とシバは言うとカタリーナを促し、飛空艇に向かって歩き出した。
その後をクロード達冒険者も続いた。
「フェリー? ソフィアの父親だと?」
「そうだよ。単なる亡命だとそれこそフランドワープがカタリーナ派閥の巣窟になりかねんだろうが?! それをオリバイエ公国のベニート大公が危惧してフェリーに相談したんだよ。自国が政争の火種になっては敵わんからな。あんたの考えは流石だけど、詰めが甘い。何でも自分だけ背負いこむな」
と歩きながらシバはカタリーナに説教するように言った。それをソフィアもカタリーナのすぐ傍で黙って聞いていた。
オリバイエ公国のベニート大公は元々モルタリア帝国皇族の一員であった。現在、公国はモルタリア帝国の属国としてその地位を維持していた。この公国は精密機械製造及び軍需産業が主な産業であった。モルタリア帝国の新型兵器もこの国から生まれる場合が多かった。
ちなみに飛空艇ミカサは、元々この国で開発された航空戦艦の試作艦であったが、計画途中で破棄放置されていたのを良い事に、オージーやらシバたちが勝手に住み着いた上に、挙句の果てに飛ばしてしまった代物だった。
そういう経緯とフレデリック三世との繋がりもあり、シバたちはオリバイエ公国とも関係が深かった。
「そんな事は……」
とカタリーナは言いかけて言葉が続かなかった。彼女の明晰な頭脳は、シバの話の意図をすぐにくみ取っていた。
「あんたが好むと好まざるに関わらず、あんたの周りには勝手に人が集まってくるんだよ。それ位理解できるだろう?」
カタリーナは無言だった。全くシバの言う通りだと思っていた。
――何故そこに気が付かなかった――
と後悔の念まで湧き上がっていた。
「ま、乗れよ。フランドワープまで送ってやるよ。あんたの弟君もフランドワープでくつろぎたいらしい。本当にあれは昔からシスコンなんだから……」
とシバは飛空艇のカーゴドアのへりに手をかけて言った。
「また、手数をかけたな」
とカタリーナはシバに頭を下げて礼を述べた。
「いつもの事だ。気にするな。別運賃は後で弟君に請求する」
と言ってシバは笑った。
「そうしてくれ」
と言うとカタリーナは飛空艇に乗り込もうとしたが、ふと足を止め
「ところでお前たちはフェリーに肩入れすると決めたんだな」
と聞いてきた。
「はぁ? 何の話だ?」
とシバは意外な言葉がカタリーナの口から出て来たので驚きながら聞き返した。
「いや、フェリーの次は皇女殿下のお抱え運転手になったっていう事は、そう言う事じゃないのか?」
とカタリーナは意外そうな表情で更に聞き返して来た。
「誰がお抱え運転手だ! 失敬な! ソフィアはクロード達のパーティメンバーになっただけだ!」
とシバは語気を強めて反論した。
その声を聞いてクロード達は驚き一瞬たじろいだが、気を利かせて先に飛空艇に乗船していった。
「ほほぉ……一国の皇女殿下が一介の冒険者の下に就くと……お前は本気でそういうのだな? そんな事を誰が信用する? 誰が納得する? どこの国の王がそれを受け入れる?」
と語るカタリーナの目はもう笑っていなかった。
「そ、それは……」
とシバは言葉が続かなかった。確かにカタリーナの言う通りだった。
シバやアキトは飛空艇の機密を盗まれる心配はしていたが、自分たちがどう見られているかという視点が欠落していた。二人はソフィアの加入を『クロード達冒険者の旅が面白くなればそれで良い』という程度にしか考えていなかったが、国王フレデリック三世(その当時は皇太子でもなかったが)に続き、その皇女殿下までも仲間として乗り込んだ世界最強の航空戦艦となると、周辺諸国は疑心暗鬼になるのは火を見るより明らかであった。




