スエンビーア王国の女王
「なのに何故? 亡命なんですか?」
コーネルはシバの答えに全く納得できなかったのか質問を重ねた。
「色々事情があるんだろ? 詳しい話は知らんが、亡命である事は間違いない。本人がそういっているんだからな。これ以上確かな事は無い。ただ……もしかしたら譲位の理由も実際のところ、違うかもしれんしな」
「本当は王位の簒奪だと?」
コーネルの表情が一気に険しくなった。
「そこまでは言っていない。ただこの若い女王の治世が安定していたこのタイミングでの譲位に疑問を感じている国民は多いという事だ」
シバは否定しつつも、含みを持たせた返答をした。
「そうでしょうね。唐突過ぎますからね。民衆がそう思うのも無理はないでしょう」
「俺もそう思う。ただな……今回の依頼にはフェリーも一枚噛んでいる。だからあいつから直接俺たちに依頼が来たという訳さ」
とシバはうんざりした表情を見せると吐き捨てるように言った。
「はぁ? 陛下が? 帝は一体何がしたいんだ? こんな余計な事に首を突っ込んで……」
とコーネルは思わず呟いてしまった。一国の皇帝が他国の政情に介入するのは、非常に危険すぎるのではないかとコーネルは感じていた。
「その言葉は直接本人に言ってやればよい」
とシバもコーネルと同意見のようだった。
「あ、今のは聞かなかった事に」
とコーネルは慌てて前言を撤回した。
思わず口を突いて出てしまった本音にコーネルは焦った。
「君たちの言いたいことはよく分かったが、今回のクエストは元女王を無事にスエンビーア王国からオリバイエ公国首都フランドワープの別邸まで運ぶことだ。これはやり遂げなくてはならない。もちろん今回の件については、オリバイエ公国のベニート大公も承知している」
とアキトは説明した。
「そうなんですね……話はそこまで進んでいるんですね……」
とコーネルは複数の国家間で秘密裏に計画が進んでいる事の意味を理解した。今回の元女王の亡命は、それなりに国家間で意味のある重要な出来事であるのだろう。そうでなくてはそれぞれの国の王家が関わる理由が思いつかない。
「で、コーネルもあの女王の噂ぐらい聞いた事があるだろう?」
とシバがコーネルに聞いた。
「はい。ありますが……頭脳明晰にして政治的手腕も確かで、国民からの支持も高いとお伺いしております。ただ結婚と王座ほど嫌なものは無いと豪語している変わり者とかいう噂も耳にします……だから未だに独身で王位を弟君に譲ったと」
「概ねその情報は正しい」
と満足そうな表情でシバはうなずいた。
「あと、強烈な博愛主義者で日頃から『王家は国民への奉仕者だ』と孤児院や無料の病院を建てたりしていると聞いた事があります。なのに国家間の戦争には一度も負けた事が無い。あのラシール帝国との『三年戦争』では最終的に和議に持ち込み戦後の賠償金をせしめたとも聞き及んでおります。そう言えば『男装の麗人』とも言われておりましたね」
とコーネルは話を続けた。
「良く知ってるな。その情報には間違いがない。彼女は筋金入りの平和主義者であり軍神でもある」
とシバはコーネルの話を聞いて何度もうなずきながら言った。そう女王カタリーナの考えは、今でいう『自由主義思想』に近いものと言えよう。
「艇長はもしかしてカタリーナ様と面識が?」
とコーネルが聞き返した。
「ああ、あるよ。アキトも良く知っている。本当に変わり者の女王様だった。女王と言うより普通に王と言った方がしっくりくる」
とシバはアキトに視線を移した。アキトは黙ってうなずいた。
この二人は女王と面識があった。
「そうなんですね」
「弟に王位を譲り円満に退位したというのに、何故、亡命までする必要があるんでしょうか? やはり何かあるんでしょうか?」
とコーネルはまだ納得しかねていた。
「さぁ? 王家のお家事情は俺たち下々の人間には量りかねる」
とシバは話を切り上げた。
「それではそろそろクロード達を呼ぶか!」
そう言ってシバはアキトを見た。
「そうだな。俺が呼んで来よう」
とアキトは艇長室を後にした。




