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皇女殿下の飛空艇  作者: うにおいくら
第二章 皇女様の飛空艇

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旅立ち

 翌朝。

宮廷の駐機場に留め置かれた飛空艇の前で、ミカサのクルー全員が整列していた。

それを宮廷のバルコニーから皇帝と皇后、そしてソフィアの弟である皇太子シャルルが見守って居た。


「今日からこのお姫様がクルーとして乗艦する。クロード達と一緒に旅をする事になる。よろしく頼む」

と飛空艇のカーゴドアに立ったアキトがクルー達を見下ろして言った。


 その後、地上にいたシバがアキトのすぐ前に立つようにステップに足を掛けた。


「それと親ばかの皇帝陛下が『娘の事が心配でならない』という事で、二人の従者も一緒に乗り込むことになった。お姫様のお世話係のマリアとお目付け役の宮廷騎士コーネルだ。この二人もよろしく頼む」

と告げた。勿論バルコニーに居る皇帝一家にも聞こえるように声を張り上げていた。

テラスの皇帝は苦虫を嚙みつぶしたような表情でそれを聞いていた。

ちなみに皇后は笑っていた。


 シバに紹介された二人は前に進み出て、振り返りクルー達に一礼した。

それを受けてクルー達も黙って頭を下げた。

厳かな空気が漂っていたが、クルー達が寡黙だったのは昨日の酒がまだ残っていたからだった。


「では、乗艦」

とアキトが叫んだ。


 ゾロゾロとクルーは飛空艇に乗り込んでいった。宮殿駐機場の作業員が、飛空艇の車止めを外すために散らばっていく。


 そんな中ソフィアと二人の従者たちが飛空艇に乗り込もうとしていた。

ステップに足を掛けたソフィアに


「お父様が寂しそうな顔で見て居るよ」

とシバが声を掛けた。


 一瞬立ち止まったソフィアは振り返ると


「お父様、お母さま、行ってまいります。ソフィアは無事に帰ってまいります。シャルルも元気でね」

と呟いて一礼してから飛空艇に乗り込んでいった。

二人の従者も皇帝に一礼してから乗り込んだ。


 最後に残ったシバが振り返り、皇帝フレデリック三世に向けて右腕を掲げた。皇帝と皇后は無言で頭を下げた。

それを見届けるとシバは飛空艇に乗り込んだ。


 カーゴドアが閉じられると、かすかな作動音を響かせて飛空艇は浮上した。

そのままゆっくりと上昇していき、上空でゆったりと宮殿を中心に円を描く様に大きく旋回した。そして汽笛を三回長めに鳴らしてから宮殿を後にした。


 艇内ではソフィアが食堂の窓から遠ざかっていく宮殿を見つめていた。

暫く黙って見ていたが意を決したように深呼吸すると、窓から離れクロード達に


「これからよろしくお願いします」

と頭を下げた。

同時に今回一緒にパーティに加わる事になった付与師のマリアと宮廷騎士のコーネルも頭を下げた。


「うん。これからは仲間だ。他の二人もよろしく」

とクロードは笑顔を見せた。


 その様子を見ていたシバが

「コーネルは俺たちから見たら若手だけど、このパーティに居るとやっぱりオッサンにしか見えんな」

とからかった。


「お久しぶりです。シバ艇長。でもオッサン呼ばわりは勘弁してください」

と頭を掻いた。

どうやらコーネルはシバとアキトとはすでに面識があったようだ。


「クロード。こいつはこう見えても宮廷騎士長だからな。筋金入りの騎士様だ。結構強いぞ。それとマリアは付与師をやってもらうが、魔法だけでなく棒術にも長けている。人型モンスターは相手にならんぐらいには強い」

とクロード達にコーネルとマリアを紹介した。


「うん。なんとなく強いのだけは分かっていたけど、凄いね」

とクロードは純粋に驚き、強い仲間が増えた事を喜んでいた。


「そりゃそうさ。なんせ皇女殿下の付き人だからな」

とシバは笑った。


「うん。そうだよね。こちらは白魔導士のフローラと魔法戦士のブラウン。これから僕たち三人の面倒もよろしくお願いします」

とクロードは他の仲間を紹介しながら頭を下げた。


「こちらこそ、よろしくね」

とマリアも笑顔で応えた。これでクロード達のパーティは六名となった。



「で、艇長、この(ふね)はどこへ向かうんだい?」

と話が落ち着いたところでクロードが聞いた。


「スタンツラスタンだ」

とシバはスエンビーア王国の首都の名前をあげた。と同時に視線をコーネルに一瞬向けると、コーネルは微かに目を伏せた。


 スエンビーア王国はモルタリア帝国から北西へゲルオン王国を越え、バルジ湖というとてつもなく広い湖の向こうにある王国だった。


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