持て余す力
「ふぅ。失礼しました……私とした事が……」
二人に落ち着く様に言われてソフィアも少し冷静さを取り戻したようだ。
そして息を整えてから話を続けた。
「そんなところに炎龍が現れました。お二人だから言いますけど、私本当は心躍ってました。こんな降って湧いた腕試しのチャンス! とウキウキしながら炎龍をあの場から浮遊島に誘い出したら、そこに冒険者の出立ちをしたクロード達が目に入りました」
「待て待て!! もしかしてクロードに助けを求めたのは演技か!?」
と思わずシバはソフィアの話を遮って聞いた。
「いえ。それは違います。助けを求めたりはしていません。クロードが私のワイバーンの手綱捌きを見ていたんでしょう。『俺に代われ! 俺が倒す!』と叫ぶ声が聞こえたので仕方なく代わりました」
とソフィアは慌てて否定したが、シバはその言葉にかすかな心残りの気配を感じていた。
――自分自身の手で退治したかったんだろうなぁ……せっかくのチャンスをクロードの奴め……――
とシバはソフィアに同情しながら
「それはクロードも余計な事をしたなぁ。代わりに俺が謝っておくよ」
と頭を下げた。
「いえ。実はその時『これはチャンスかも?』とすごく期待しました。この機会に『このパーティのメンバーにしてくれ』と交渉できるかもと思いつきました」
「なるほど……」
とシバは呟きながら今度は、
――その一瞬でよくもまぁ、そんな判断ができたもんだ――
と感心していた。
「そうかぁ……やっぱりソフィアは一人で倒せたんだね?……」
とアキトが確認するように聞いた。
「はい。済みません……余裕で倒せました」
と申し訳なさそうにソフィアは謝った。
「やっぱりね。でもその思い付きは上手くいったと?」
とアキトは感心したようにうなずいた。
「はい。でも本音を言うと、その時は『これがきっかけになれば良いな』程度でしたが、そのすぐ後にあの飛空艇がやって来て一撃で炎竜を仕留めたのを見て決心しました。この世界であの艇は有名ですから一目見た時から決めました。絶対にこの艇に乗せてもらうと」
「なるほどねぇ……有名になるのも考え物だな……」
とシバがもう呆れ気味に呟いた。
「でも、父もこの艇に乗っていたとは知りませんでした」
「隠していたもんねぇ」
とアキトが愉快そうに言った。
「そっかぁ……クロードは助けたのではなくダシに使われただけかぁ……さらに可哀そうな奴……」
とシバは憐憫の表情を浮かべて呟いた。
「済みません……これもここだけの話にしておいてください」
とソフィアは懇願した。
「うむ。これは流石に言えんなぁ……本人は助けたつもりなんだしな」
とアキトも同情するように言った。
「済みません……」
とソフィアは消え入りそうな声で再び謝った。
「で、本当の君の能力についてフェリーは知っているの?」
とシバは確認するように聞いた。
「いえ。人よりは相当能力が高いとは思っていますが、チートである事は知りません」
「もしかしてステイタス隠ぺいのスキルも?」
とシバが聞いた。
「……はい。持ってます」
とソフィアは申し訳なさそうに言った。
「あれを見破るのはそれ以上の高スキルが要るからなぁ」
と感心したようにシバが呟いた。
「まぁ、しばらくはその能力全てを全開するのは止めた方が良いなぁ……クロードがショックを受けるからな」
「それは間違いないな」
とアキトもうなずいた。
「分かりました。しばらくは自重します。今までもずっとそれできましたから大丈夫です」
「自分の力を隠すって案外面倒なんだよねぇ……慣れたとはいえ」
とシバはソフィアの苦労が手に取るように分かっていた。
「え? お二人もそうなんですか?」
「そうだよ。ステイタス全開なんかしたら面倒に巻き込まれるだけだからね」
とシバは笑いながら答えた。
「父は『あの二人が本気を出したら国の一つや二つは軽く消え去る』とか言っていましたけど」
「まぁ、やれない事は無いな。流石にやった事ないけど」
とシバは意味深な笑いを浮かべた。
「やっぱり。異世界チートは最強ですね」
とソフィアは納得したように笑顔を見せた。
「本当にそれだけはね。笑うぐらい無意味に強いよ」
とシバは呆れたように言った。実際、二人も自分たちの能力がこの世界の人間からかけ離れ過ぎている事に気が付いた時は、呆れ果てて笑うしかなかった。
「私もそうなりますかね?」
「いや。もう『そうなっている』だな」
「やっぱり……」
とソフィアは肩を落とした。
「ま、更に強くなっていくと思うけどね。これからも上手くそのチートと付き合っていくしかないよ。これはもう慣れるしかないけどね」
とシバは慰めにもならない気休めを取りあえず言った。
それを聞いてソフィアはじっとシバの顔を見つめていたが、観念したように
「そうですよねぇ……そう思う様にします」
と言った。シバの言葉は単なる気休めだとソフィアも分かっていたが、本人自身もこの頃はそう思い始めていた。
――案外そういうものかもしれないわ――
と心の中で自分自身に言い聞かせていた。




