ソフィアの告白
その夜、宮廷に飛空艇のクルー全員が招かれ、大広間で宴会が開かれた。
名目は皇女を救ったお礼であったが、ただ単にフレデリック三世がシバや元仲間たち、クロード達と飲みたかっただけであった。ただこれから娘が世話になる飛空艇のクルー達の人となりを知っておきたかったというのもあった。もっともそれは皇后マーガレットの意向が強かったようだが……。
宴もたけなわで盛り上がるテーブルから少し離れた円卓で、シバとアキトはその様子を眺めるように二人で盃を酌み交わしていた。そこへ皇女ソフィアが一人でやって来た。
二人の前に立ち
「これからは一乗組員としてよろしくお願いします」
と頭を下げた。
「皇女様、こちらこそよろしくね。ま、とりあえずは座ったら?」
とアキトが微笑みながら言った。
ソフィアは頭を上げると空いていた椅子に座り
「それにしても父上が冒険者だったとは知りませんでした。お二人は父上と一緒に冒険もされていたんですよね?」
と聞いた。
「そうですよ。お父上は君に隠しておきたかったようだったけどね」
とシバは笑いながら言った。
「そうみたいですね。今まであれほど反対していたのに、自分も冒険者で旅をしていたなんて酷いと思いませんか?」
とソフィアは憤りながら言った。
「その通りですね。しかし父親としては心配なんでしょう。可愛い一人娘を、危険極まりない冒険者にしたがる父親はあまりいないでしょう」
とシバはソフィアを諭すように言った。
「それはそうなんですけど……」
とソフィアは拗ねた様な表情を見せたが
「ところでお二人は異世界からの転移者なんですよね。父から話を伺いましたが……」
と改まった表情で聞いた。二人が転移者である事は、彼らを知る者たちにとって周知の事実であった。
「そうです。ここに来てしばらくしてから皇女殿下のお父上と一緒に冒険を始めました」
とアキトは言って盛り上がっているテーブルに目をやった。
その視線の先には機関長のオージーと楽し気に話し込んでいる皇帝陛下が居た。多分昔話に花が咲いているのだろう。
「実は……ここだけの話にして欲しいんですが……私は転生者なんです」
とソフィアは唐突に告白した。
「へ?」
シバとアキトは目を見開き口をぽかんと開けて動きを止めた。
しばらくしてシバが
「今……なんと?」
と聞き返した。
「はい。私も転生者だと申し上げました」
とソフィアはにこやかに答えた。
「その事をフェリーは……?」
「もちろん知りません。言えるはずがありません」
とソフィアは目を伏せ首を振った。
「ですよねぇ……」
と言ってシバは肩の力を抜いたように脱力した。
「ここにも転移者がいたか……」
アキトが呟いた。
「君も日本から?」
とシバが聞いた。シバは既に彼女が皇女殿下である事を忘れてしまっていた。いつの間にか言葉遣いがため口になっていた。
「はい、そうです」
ソフィアも今は自分の立場を忘れて、一転生者となっていた。
「異世界転移転生は日本のお家芸か?」
とシバが苦笑いしながら言った。
そして
「で、君は本来女子高生で、役どころは悪役令嬢だったとか? やっていた乙女ゲームの悪役令嬢だったとか?」
と言葉を続けた。
「女子高生でしたが悪役令嬢ではないです。そもそも私は乙女ゲームをやっていません!」
とソフィアはきっぱり言った。
「そうか……それは残念」
それを聞いて何故かシバは少し残念だった。
――ゲームと同じ設定なら、将来この国がどうなるか前もって分かったのになぁ――
と不埒な事を考えていた。
「なんか良からぬ想像をしていませんか?」
とソフィアはシバの顔を覗き込むように聞いてきた。
「いや、全然」
とシバは慌てて否定した。




