皇帝フレデリック三世
シバとアキトは同時に立ち上がり、姿勢を正してから軽く会釈した。
クロード達はそれを見て慌てて立ち上がり、同じように首を垂れた。
「堅苦しい挨拶は止めい!」
とフレデリック三世は苦笑いしながら言った。
「ま、一応ね。若者たちに手本を見せておかないとね。大人の責任だからな」
とアキトが笑いながら顔を上げた。
シバとアキトも一応は公私のけじめだけはちゃんとつけていた。
「まあいい。座りたまえ」
と言ってフレデリック三世も腰を下ろした。
「改めて皇女を救ってくれたことに礼を申す」
とフレデリックはクロード達に頭を下げた。
「いえいえ。頭を上げてください。僕たちは当たり前の事をしただけですから」
とクロードは慌てて言った。
「いや、ソフィアからも話を聞いた。君たちが居なかったら、娘は無事にここに戻ってこれなかったであろうと」
「気になさらないでください。あれはクロードが向こう見ずな上に、困っている人を放っておけない性格なだけですから」
とクロードに代わって白魔導士フローラが応えた。
「僕が何も考えていない奴みたいに聞こえるじゃないか?」
クロードが不満げに反論すると
「そう言ったんだけど、なにか?」
と涼しい顔でフローラは応えた。
「ははは。なる程、困っている人を見ると放っておけない性格であるか」
とフレデリック三世は愉快げに笑った。
「はぁ、そうなんだよなぁ……それが困りもんなんだよなぁ」
とシバがため息交じりにうなずくと
「それじゃあ、まるでお前たちと一緒じゃないか?」
とフレデリック三世はシバとアキトに視線を向けた。
「え?」
とクロード達もシバとアキトを見つめた。
「余計な事は言わなくてよろしい」
とシバよりもアキトが先に口を開いた。
「ははは、そうだったな」
とフレデリック三世は愉快そうに笑うと
「余は昔、この二人と一緒に冒険をしていた事がある」
とクロード達に話しかけた。
「え? そうなんですか?」
クロード達は声を合わせて驚いた。そしてシバとアキトの顔をうかがうように見た。
「そうだよ。二年ほどそこの皇帝陛下様と一緒に冒険者として旅をしていたんだよ」
とシバがフレデリック三世の言葉を補足するように話した。
「その時はまだ皇太子だったけど、一国の皇太子が冒険者になるなんて、不見識にも程があると思わないか?」
とシバはクロード達に問いかけた。問いかけられたからと言っても、クロード達もどう応えていいか分からずにお互いの顔を見比べて黙り込んでいた。
「こいつらに話を振るな。答えに困っているだろう?」
とアキトがシバに釘を刺すように言った。
「シバよ、それは違うぞ。あの時はまだ皇太子でも無かったのだがな。それはさておき、あれは楽しい旅であった。そしていい旅でもあった」
とフレデリック三世は懐かしむような表情を見せて言った。
「しかし、だからと言って余の娘が冒険者になる……というのはまた話が違う」
と今度は険しい表情で言った。シバとアキトは無表情で聞いていた。
「フェリーは皇女からクロード達と冒険したいという話を聞いたのか?」
とアキトが確認した。
「ああ、聞いた。さっき帰って来るなりその話をして来た」
とフレデリック三世は険しい表情のまま答えた。
――早速、言ったのか……――
と思いながらシバはアキトに視線を移したが、お互いに同じことを考えていたようで二人の視線が重なった。
――やっぱり親子だな――
とそう思いながらアキトはうなずいた。シバも口には出さなかったが同じ事を思っていた。




