皇女殿下の願い
「はぁ?!」
とシバは驚いて次の言葉がすぐに出なかった。
――規格外の皇女様だな――
確かにその流れは期待していたとはいうものの、まさかそういう展開になるとは思ってもいなかった。単なる希望的観測に過ぎなかった。それに流石に皇女殿下をこのままこの飛空艇に乗せて旅を続ける事は出来ない。そんな事をすれば、拉致したと思われても言い訳もできない状況に陥るのは間違いなかった。
確かに物語的には面白い流れだが、この艇の責任者として敢えてそんな状況に足を突っ込む気にはならない。
――お付きの者たちから離れた状態で、このまま一緒に連れて行ったら間違いなく拉致したと思われるようなぁ――
「う~ん」
とシバは応えながらクロード達に視線を移した。
「お前はどうしたいんだ?」
とシバはクロードに聞いた。
「う~ん。僕は別に問題ないし大歓迎なんだけど、相手が皇女様だけあって勝手に決めて良い物かどうか迷うよなぁ。大人の事情とかない?」
とクロードは困惑した表情を浮かべて言った。
――案外、こいつは常識的な判断ができるんだ。流石コミュニケーション能力が高いだけある――
とシバはクロードの言葉に驚きながらも彼を少し見直していた。
「お前の言う通り大人の事情と言うのが、たんまりとあるのでこのまま一緒にという事は出来ないが……フローラとブラウンの意見は?」
シバはその場にいた他の二人のパーティメンバーにも聞いた。
「うん、クロードが決めたんであれば私は何も言う事はないよ」
と白魔導士のフローラが答えた。その返事を聞いて魔法戦士のブラウンは黙ってうなずいた。二人のクロードへの信頼は厚かった。
「ふむ。そうかぁ……」
シバは黙って考え込んだが、ほどなく顔を上げて
「このパーティーのリーダーはお前だ。お前が決めた事なら俺が反対する理由はない」
とクロードに言った。
「そうか、良かった」
クロードはほっとしたように軽くため息をついた。
そしてソフィアに向かって親指を立てた拳を突き出した。
「ありがとうございます」
とソフィアはシバに頭を下げた。
「いえいえ。決めたのはクロードですから、私はしがない貨物便の艇長ですから」
とシバは謙遜しながら答えた。
そして表情を改めてクロードに
「ただ、仲間にするにしてもその前に、本来の依頼を完遂した報告をギルドにしなくちゃならんだろう?」
と聞いた。
「うん」
クロードは頷いた。
「そしてもっと大事な事は、皇帝にこのまま皇女殿下の冒険の許しを得る事だ。流石に黙って一緒に行くのは無理だぞ」
とシバは言った。
「うん」
とクロードは答えた。
「皇女殿下もそれでよろしいか?」
とシバはソフィアに確認するように聞いた。
「はい」
とソフィアも短く応えた。
「クロードもそれでいいな? 許可が出なかったらこの話は無しだ」
と念を押すようにシバは聞いた。
「それで良いよ……でもおいらは多分大丈夫じゃないかなと思う」
クロードはなぜかそれなりに自信ありげに言った。
「なんでそう思う?」
「なんとなく」
とクロードは答えた。
シバはクロードの顔をじっと見つめていたが
「そうか……お前がそう言うならそうなんだろう」
とそれ以上この話題を深く追求する事はしなかった。




