思い出話
「そうか。じゃあクロード。クエストの成功報酬のニ割よこせ。それで乗せてやる。後はクルーとしてこの艇の作業を手伝え」
と真顔で言った。意外にもシバはこの少年を飛空艇に乗せるつもりだった。
「え? 本当に良いの?」
と驚いたようにクロードは聞き返した。予想外の展開に彼の思考がまだ追いつけていなかった。
「嫌ならこの話はなかった事にするだけだ」
「とんでもない」
とクロードは首を激しく振った。
「じゃあ、用意して来い。今日はここに泊まるから、用意が出来たらコーラン亭に訪ねて来い。そこで他のクルーにも紹介する」
とシバは表情も変えずに言った。
「はい。分かりました。今からすぐに用意してきます」
と言ってクロードは慌てて走り去って行った。
その後ろ姿を見送ってから
「本気か?」
とアキトが少し驚いたように聞いた。
「鑑定したんだよ」
とシバは明るい表情で言った。
「ほぉ? 視たのか?」
「ああ、剣士としては相当潜在能力が高かった。魔力も相当あった。この世界の人間としては高すぎる位にな。それに竜騎士のスキル持ちだ」
アキトとクロードの会話を聞きながら、シバはクロードの能力を測っていた。それは彼の予想に反して高い数値を現していた。
「ほぉ。そんなに高かったのか?」
とアキトは思わず声を上げた。
「ああ。後コミュニケーション能力も高い。一流の営業マンにだってなれそうだ」
「いや、そんな能力ここで必要か?」
とアキトは呆れたように言った。
「メンバー集めには有効だ。あいつはいずれパーティを組ませなくちゃならん。その時にコミュニケーション能力は無いよりあった方が良い」
とシバは表情も変えずに言った。
「なるほど……確かにな。お前に真顔でそう言われるとそんな気がして来た」
とアキトは笑いながら応えた。
……そんな事をアキトは思い返していた。
今でこそ依頼さえあれば何でも運ぶこの飛空艇のオーナーになったこの二人にも、この異世界に転移して来た当時は冒険者として世界を駆け巡った過去があった。今は冒険者としては第一線を退いたが、できるだけ頑張る冒険者を応援しようと考えていた。
言い換えれば、冒険に飽きて他にする事も無く身を持て余していたとも言える。
「変な勘繰りを除けば、純粋に今回クロードは皇女と知り合ったという事だ。知らぬ事とは言え、あいつが皇女殿下を助けたという形でだ。これは異世界ものの黄金のセオリーだろう? もしかしたらあいつは案外引きが強いのかもしれない」
シバは再び椅子の背もたれに身体を預けて天井を見上げながら言った。
その声を聞いてアキトは現実に引き戻された。
「そう言えばそうだな。俺的には女神様なんかを引っ張って来てもらいたかったが……」
アキトも同意したようにうなずいた。
「それは転移者のお約束だろう? 残念ながらクロードは転移者ではない」
「そうだったな」
とアキトは残念そうに言った。
「それよりもこれからあいつの冒険がもっと面白くなればいいのにな」
とシバは明るい表情で言った。
「全くだ。そうでなくては一緒に組んだ甲斐がないというもんだ」
その件に関してはアキトも同意見だった。二人はクロードの冒険者としての成長を期待していたし、彼らと一緒に出る旅は楽しいものであった。それがたとえこの二人にとって何度目かの冒険の旅であったとしても……。




