出会い
「せっかくなんだからここで一泊しましょうよ」
と銃撃手の一人リンダが言った。
シバはその場にいた他の乗組員の顔を見回した。全員がうなずいていた。
「急ぎの仕事はあったか?」
とシバはアキトに聞いた。
「安心しろ。全くない」
とアキトは表情も変えずに言った。
「そうだな。この村はモルタリアの中でも美しい村として有名だったな。久しぶりにここに来たわけだし……分かった。そうしよう」
とシバも反対する理由もなかったのでリンダの意見を聞き入れる事にした。
それは乗組員全員の意思とも言えた。
「よっしゃ!」「やったぁ」
と乗組員は歓喜の声を上げた。
「分かった。では宿はいつも空いている『コーラン亭』で良いな」
「イエッサー」
と全員が声を合わせて応えた。
「やっと地に足をつけて広いベッドで寝られるわ」
と肩にリュックを背負った同じく銃撃手のシルフやイオンが、嬉しそうに話しながら歩き出した。
その姿を見送りながらアキトがシバに
「お前も行って来いよ。今日の居残りは俺とカーンでやる」
と声を掛けた。
「二人で大丈夫か?」
「当たり前だ。一応防御結界も張っておくからな」
「そうだったな。じゃあ、あとは任せる」
とシバは自分のバッグを肩に掛けた。
その時だった。
「あの船はオジサンたちの船?」
とシバの背後から声がした。
「お、おじ……さん……だとぅ?」
と眉間に皺を寄せてシバが振り向いた。
そこにはまだ十代の少年が立っていた。少年は少し怯えた様な表情を見せて、上目遣いにシバの表情をうかがっていた。
「もう、間違いなくオジサンだろう? そろそろ諦めろ」
とアキトが笑いながらシバを宥めた。
「なんだ? このクソガキ。なんか用か?」
とシバは不貞腐れたように言った。おじさん呼ばわりされたのが、よっぽど気に入らなかったと見える。
「あ、あの……この船ってオイラでも乗れるの?」
少年はおどおどしながらもはっきりとした口調で聞いた。
「ああん? この艇に乗りたいだとぅ?」
とシバは顎を突き出して脅すように聞いた。
「お前はヤンキーか!」
と言いながらアキトがシバの後ろ頭を叩いた。
「ごめんね。驚いたよね。誰も怒っていないから安心して。で、なんでこの艇に乗りたいの?」
とアキトは笑顔でその少年に声を掛けた。
「はい。こんな船で冒険出来たらどんなに楽しいだろうかと思ったら、声を掛けずにいられませんでした」
とその少年は明るい表情で答えた。
「ふ~ん、そう言う事かぁ。ところで君は冒険者になりたいの? それともこの艇の乗組員になりたいの? どっち?」
とアキトは聞いた。
「それは……。実は半年前、オイラの村の学校を出てからこの村に来て冒険者の見習いをしていたんだけど、この船が空からここに降りてくるのを見て、居ても立っても居られなくなったんだ。なのでこの船に乗って世界を冒険したいです」
と少年は熱く思いを語った。
「なる程ね。単なる衝動的な思い付きということだね。その上どちらもやりたいわけか……なかなか贅沢な望みだな」
とアキトは微笑みながらシバに視線を移した。それはこの場を適当に流して、終わらせようという意図の視線であった。
黙って二人のやり取りを見ていたシバはおもむろに
「お前、名前はなんていう?」
と聞いた。
「ク、クロードです。テンピ村のクロードです」
少年は姿勢を正して答えた。
「歳は?」
「十六歳になったばかりです」
とはっきりとした声で答えた。




