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6.与えられる自信

大変お待たせいたしましたー!!

 

「それで?お父様とはどうだったの?」


 この日もオリヴィアはカティーニ公爵家を訪れていた。

 到着して早々、挨拶もそこそこにセレスティアにいつものサンルームに連れて来られた。

 本日もレイモンドは仕事に出ており、今はセレスティアとオリヴィアの二人だけだ。


「セレスティア様の、お義母様の仰った通りでした。父は私や母のこと、今の継母と弟のことを愛していると、そう言ってくれました」


 詳しく話せば色々あったのだが、話せば長くなりそうなので報告だけにオリヴィアはとどめた。


「レイモンド様も誤解は解けたと仰っていました」


 レイモンドもその後モルディアスと話すことができたと聞いている。

 セレスティアから自分たちに対する誤まった認識を聞いた時、モルディアスは大層驚いていたそうだ。

 この辺りはコリンズ伯爵と違い、モルディアスは自分の息子が自分から妻への愛を疑っていることも、自分の息子に対する愛情が伝わっていないことにも気づいていなかったらしい。

 どうやら言わなくても通じていると思っていたようだ。

 唖然としたモルディアスは恥ずかしがり屋の仮面を捨て、饒舌に語り出したのだという。

 自分に関心が薄いとレイモンドは思っていたが、実は何かがあった時に色々と手を貸すことが出来るようにと準備していたということや、幼い頃に変装して街に遊びに出ていたこともしっかり把握していたことなどを知ったらしい。

 手助けに関しては、優秀なレイモンドが何でも自分でそつなくこなしてしまうため不発だったらしいが。

 そしてセレスティアのことはもちろん一人の女性として愛しているし、妻を愛するのは当然だと言った。

 そして妻だからではなくセレスティアだから愛しいのだと言ったらしい。


 それを聞いたオリヴィアは「素敵だわ」と胸をときめかせたが、レイモンドは愛を語る父親は「気持ちが悪かった」と言った。

 酷い言い様である。

 単なる照れ隠しだとオリヴィアは思っているのだが、実際のところは分からない。

 だからセレスティアにこっそり聞いてみたかったのだ。


「まあ、あの子ったらそんなこと言っていたの?素直じゃないんだから。その様子では最後のやりとりも教えていないわね」

「何かあったのですか?」

「モリーがレイモンドにオリーとは上手くやれているのかって聞いたのよ。あの人ったら色々と吹っ切れたみたいで、何か問題があるなら自分たちのように長く仲良くいられるコツを教えてやるなんて急に言い出してね」


 モルディアスは忙しいらしく、オリヴィアもまともに話したことがあるのは婚約を結んだ日くらいだ。

 レイモンドと違い、どちらかと言うと勇ましいと言われるような雰囲気の公爵がそのような事を言うのは想像がつかない。


「私は吹き出しそうになってしまったのだけれど、レイモンドは凄く嫌そうな顔をしていたわ」


 そして自分はモルディアスと違い、オリヴィアに対して自分の気持ちを口にすることが出来ているし、愛情表現も惜しんでいないから問題無いと言ったそうだ。

 ただ、部屋を出て行く時に「女性に対する考え方だけは父上の性質をしっかり受け継いでいるようなのでご安心を」と言ったらしい。


「ほーんと可愛くない子よねぇ」


 そう言いながらもセレスティアはくすくすと笑った。


「これ以上話すとレイモンドに怒られてしまうわね。この話はここまでにしましょう」


 そうしてセレスティアは人を呼ぶと、何かを持ってこさせ、それをオリヴィアの前に置いた。

 上質な箱の中に入っていたのは大ぶりな宝石がはめられたネックレスだった。


「これはもしや、公爵家の“煌めく夜空”……!?」

「あら、よく知っているわね。さすがオリー」


 知っているも何も社交界でこの宝石の存在を知らなければもぐりと言われても不思議ではないほど有名な宝石だ。

 中央にある親指の爪三つ分はあろうかという大きな青い石は光の当たり方によってきらきらと様々な表情を見せ、まるで夜空のようだと評される。

 このネックレスはカティーニ公爵夫人が代々受け継ぐものだ。


「初めて目にしました。とても美しいです」

「でしょう?今度の夜会でオリーに使ってもらおうかと考えていたの」

「……え?!む、無理です!」


 こんな価値のある物を自分の首に巻くなど平静でいられる自信が無い。

 首が重くて仕方がない。

 頭をぶんぶんと振って無理だと言うオリヴィアにセレスティアは苦笑を浮かべる。


「レイモンドにも止められてしまったのよね。オリーにいらぬ重圧を掛けるなって」


(レイ様!さすがです!素晴らしい助言ですわ!)


「ほら、今回初めて二人で夜会に出席するでしょう?婚約したことも明らかになるわけだけれど、それでも諦めない子っていると思うの。レイモンドって色々と出来が良いから」


 母親であるセレスティアが自ら口にしてしまうくらいレイモンドには欠点らしき欠点が無い。

 容姿も良ければ頭も切れるし人当たりも良い。

 そんな彼に懸想する女性は多くいる。

 いくら婚約したとは言っても、所詮はまだ婚約段階。

 正式に公爵家に嫁ぐまではまだ挿げ替えが可能だと思う者もいなくは無いだろう。


「これをオリーに身に着けてもらうことで、貴方は私たちのお気に入りなのよってお馬鹿さんでも分かるようにしようと思っていたのだけれど」


 婚約者になった時点で公爵夫妻が認めていることに他ならないのだが、それを考えずにオリヴィアに何かを言ってくる輩を遠ざけようとしてくれているらしい。

 オリヴィアは今まで目立ち過ぎず、引っ込み過ぎず、敵を作らずを心掛け、実際その位置取りを保ってきたが、これからはそうもいかないだろう。

 なにせあのレイモンドの相手となったのだ。


「ありがとうございます。そのお気持ちだけで十分です。誰に何を言われようともレイモンド様の隣で堂々と過ごしてみせます」


 学ぶことで得られる自信は自分で手にしてきた。

 家族に愛されているということもまたオリヴィアの自信の一つになった。


「そして女性としての自信はレイモンド様が与えてくださいました。今の私に怖い物などありません。外野の心無い言葉など笑顔で躱してみせますわ」


 そう言って微笑むオリヴィアは美しかった。

 これまでのオリヴィアは特別美しいと言う容姿ではなかったが、最近の彼女はレイモンドが笑われないようにと今までさほど力を入れてこなかった美容にも力を入れているらしい。

 さらに愛され自信を得たことで、内面からも美しさが滲み出ているようだった。


「本当に、レイモンドの言った通りね。『大体そんなものに頼らなくても私のリヴィは誰にも負けませんから』ですってよ。甘ったるいわぁ」


 セレスティアの言葉に先程まで堂々とした姿で微笑んでいたオリヴィアが一気に頬を赤く染めた。


(可愛い、可愛いわね。私の娘最高じゃない)


 レイモンドの言葉を聞いた時は、息子の言葉から砂糖を作る技術があれば無限に生成できるわねと胸焼けしそうになったセレスティアだったが、オリヴィアのこの姿を見れば甘い言葉を掛けたくなる気持ちが分からなくもない。

 まあ本人たちは幸せそうだし、他を疎かにして誰かに迷惑を掛けているわけでもないし、夫婦になる二人が仲睦まじいことは素晴らしいことだし問題無い。


「そ、そういえばレイモンド様たち遅いですね。今日はお義父様とご一緒にお早いお帰りになると聞いていたのですが」


 オリヴィアがそう聞いた時、サンルームの扉が叩かれモルディアスとレイモンドの帰宅が告げられた。

 セレスティアとオリヴィアが揃って玄関まで出迎えに行くとオリヴィアを視界に入れたレイモンドが笑顔で「ただいまリヴィ」と言って、彼女の頬に口付けを落とした。

 途端にオリヴィアの顔は赤く染まったが、その様子を驚いたような表情で見ていたモルディアスに気付くと、オリヴィアは慌てて佇まいを直し「お帰りなさいませ、お義父様」と言った。


「いや、うん。上手くやれているようで何よりだ」

「当然です。私はこのように愛情表現を惜しみませんから。父上と違って」

「……人前でそんなことが出来るか」

「私はしてくれても構わないのだけれど。照れ屋さんなんだから」


 セレスティアがそう言うとモルディアスの動きが止まり、そしてセレスティアを軽く睨んだ。

 恐らく照れているのだろう。

 セレスティアから話を聞いた後だとその行動一つ一つが面白く感じられてしまうから不思議だとオリヴィアは微笑ましく見守っていた。


「……私は部屋へ行く。オリヴィア、ゆっくりしていきなさい」

「はい。ありがとうございます」

「リヴィ、私たちも行こうか。君に渡したいものがあるんだ」

「渡したいものですか?」

「ああ」


 モルディアスたちと別れ、オリヴィアたちは応接室へとやって来ると長椅子に二人並んで腰かけた。


「遅くなって悪かったね。持ってきてくれるのを待てなくて自分で取りに行ってしまったんだ」

「取りに行った?何をです?」

「リヴィへのプレゼントだよ」


 レイモンドの答えに、待ってましたと言わんばかりに使用人がジュエリーケースを持って来た。

 蓋が開けられると、中には琥珀色の宝石が使われたネックレスとイヤリングが入っていた。


「……素敵」

「気に入ってくれたかい?今度の夜会でリヴィにはこれを着けてもらいたいんだ」

「これを?」

「ああ。煌めく夜空には劣るだろうけれど――」

「いいえ、どの宝石よりも嬉しいです。だって、だってこれはレイ様の色ですもの」


 琥珀色の宝石はレイモンドの淡い茶色の瞳とよく似ていた。

 オリヴィアを優しく見つめるレイモンドの瞳と同じだ。


「やはり分かってしまうか……独占欲が強すぎると笑うかい?」

「ふふっ、それを嬉しく思う私を笑いますか?」

「まさか。笑うとすれば純粋な喜びからだ。リヴィはただの公爵家が認めた婚約者ではなく、私自らが望んでいるのだと周りに知らしめたいんだ。そして私という存在があるのだから誰もリヴィに手を出すなよと言いたい」

「嬉しいです。レイ様の気持ちが何よりも。きっとこれらを身に着ければレイ様に守られているような気持ちになるのだと思います。何を言われても負ける気がしません」

「実に頼もしいね。まあ何事もなく終わるのが一番だ。二人で参加する初めての夜会が楽しいものになることを願うとしよう」

「そうですわね」


 二人の楽しそうな会話はレイモンドがオリヴィアを彼女の屋敷に送り届けるまでずっと続いた。


ブクマや感想など色々とありがとうございます!


久々に小説家になろうを開いたら、『いいね』という機能が追加されていました。

別作品ではありますが、早速いいねをくれた方ありがとうございます!

他の人に感想を見られるのはちょっと……という方や、感想を書くほどでもないけど面白かったよという方向けの機能なのかなと思っております。

どなたがいいねをくれたのかは作者には分かりませんが、嬉しことには変わりありません(^^♪

ありがとうございます!

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