旅をしよう!
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「唖?A、アーぁあーーー」
シューーーーっというような融解音や、まるで湯煙のごとくあがる場所から幽かな声がもれた。
「ぁぇぃぅぇぉぁぉ」
煙も凪ぎ、発声も確かになったそこから現れたのは…………骨だった。
「あ~?ここまで戻されたかー」
どんな原理で体を動かし声を発しているのかも定かではないが、自身の体を体をひねって見回し、肉のかけらもないことを確かめたらしきその骨は、骨でも伝わるがっくりとした風情を漂わせながら嘆いた。
目的の方は定まっているようで、周囲を確認してそこは日の光もあまり届かない薄暗い森の中で一筋、月光が届くようなやや開けた空間であることを確かめると、なにかを確認しながらさっさと歩み始めた。
「【影槽】」
何事かをつぶやくと、森の影よりも暗きその骨の影から赤い液体が骨にまとわり始めた。
それを芳しいといわんばかりにカタカタと歯を震わせ、下から這い上るソレが口腔に消えた途端、見る見るうちに肌艶もいい綺麗な白い肌に黒い髪と立ち上がった獣耳、そして紅い双眸の女性が現れた。
「【空納】」
またもや何かをつぶやいて右手を横にふるうと空中にぽつりと影が生まれたかのような黒い穴が生まれ、そこに躊躇なく手を突っ込むと、衣服を取り出した。
ドレスのような印象を与えつつ儀典用の軍服のようでもあり、それでも動きやすさや着やすさは損なわれていないと感じさせる上下を今ばかりは歩みを止めて身に着けた。
今までその裸身をあらわにしていた時とは印象ががらりと変わり、艶やかさは薄まって刃物のような空気すら感じさせ、まるで大国の近衛がそこに現れたかのように感じさせた。
それもふにゃりと相好を崩しおちつくーと声を出すまでではあったが。
「まったく!あの竜ときたら!ちょぉっと縄張りをかすめた程度でこんなとこまでぶっ飛ばすんだから!」
これだから図体がでかいやつはダメなんだ。と対象となるその竜が聞いていたら、縄張りとしてる竜峰の端どころか寝床として使ってる頂上付近を突っ切ろうとしやがったくせに!と猛抗議するようなことをぐちぐち言いながら歩みを再開させた。
ときどき獣の絶鳴が聞こえるほか、その声の方向からひとりでに赤い液体―――血液―――が女性の足下の影に潜りに来る以外は静かな森を満喫しながら、次の目的地を思案し始めた。
「結局竜峰の頂上から景色を眺めることはできなかったし、近くに高い山があったら登って~、海が近ければ深海に潜るのもいいなー!」
にっこにこと相好を崩しながら、近くの高い山の不死鳥や深海に神殿を持つ蛸が聞いたら全力でお互いの名所を並べ立てていくような言葉を漏らしながら、不老不死の理不尽、吸血鬼にして高名な旅行家である彼女はひとまず森の奥地に歩みを進めるのであった。
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