5歳で迎えたスノーの朝
「チュンチュン……ピピッ。」
寒い冬の朝、鳥の鳴き声を聞いて天蓋付きベッドの中で目が覚める。
いつもは4時になると起きるのに、壁掛け時計を見てみると6時45分……珍しくぐっすりと眠っていたらしい。
寝る前に火事防止のため、暖炉の火を消しているから息を吐けば白くなる。
「ニャ~。」
ベッドの中からもぞもぞと出て来たのは、同居猫のミシュリーだ。
この子が起きるといつもはすぐにご飯を食べに行かせるが、今日は先にカーテンを開けなければ薄暗くて心地悪い。
シャーッ
緑色のベースに金色の糸でツタを刺繍したカーテンを開けると、茶色い小鳥が庭の木に一羽でとまっている。
雪が深々と降り積もる中、餌でも探しているのだろうか。
その姿は、私から見るととても哀れ。
絶対になりたくない……。
「ニャァッ!」
「あ、鳥に襲いかかっちゃ駄目よ。外だしガラスに突っ込まれたら大変だわ。」
興奮するミシュリーをなだめながら、この五年間で自分の言葉がすっかりお嬢様になってしまったと感じる。
スノーホワイトとして生を受け早五年、今までとても大事に育ててもらってきた。
豪華な部屋に贅沢な食事、この国……『コントラスト王国』では幼い頃から動物を飼うのが主流だからと言われて、オッドアイの白い子猫を1歳の誕生日に渡された。
明らかに高そうな猫だと思いつつ、ありがとうって伝えたけどね。
「さあ、先に行っておいで。」
深い茶色の扉を開けて、ミシュリーを部屋の外に出す。
私の部屋は二階の端で、ダイニングルームは二階の真ん中辺り。
家は広いけれど、ミシュリーは迷わずに行きたい部屋に行けるから、日中は自由に行動させている。
急に静かになった部屋で、一人暖炉へ薪をくべていると、
コンコン
「スノー様、お目覚めになられましたか?」
この声は私の専属メイド、イザベラの声だ。
イザベラの一家は代々私の家に仕えている、由緒ある執事の名門家。
私の家の敷地内に家があって、毎朝早くに来てくれる頼もしい子。
まだ8歳にもかかわらず、高校生レベルの魔力を持っていて……。
「スノー様? まだ眠っていらっしゃるのですか?」
イザベラが心配そうに声をかけてくる。
「起きてるわ、入ってきて頂戴。」
「……失礼いたします。」
ガチャリと扉を開けて入ってきたイザベラは、片手で大きな箱を浮かせていた。
スノーの生れたて世界では、ごく一般的に使われる風魔法の応用で……と、ここまで話した通りこの世界では魔法が普通に存在している。
人間も動物も皆魔力を持って生まれて、勉強をすれば魔力も上がり使える魔法の種類も増える。
これまでの人生で、魔法が実在する世界に生まれたのはスノーが初めてだった。
だから……子供の体に慣れた1歳の時から、魔法を覚えようと毎日勉学に勤しんだ。
どの世界でも優秀でいる方が、幸せな暮らしを出来る可能性が高かったから、これまでに習った事のない魔法だけを勉強したのだ。
我ながらかなり実力はついたと思ってて、
「あの……そんなにニヤけてどうされたのですか?」
おっと、すっかり現実から離れていた様だ。
転生を繰り返す度に知識が増えるのは良いけれど、忘れないために一人で考え込んでしまう癖がついて困ってしまう。
「ニヤけてないわ……そんな事よりも、その箱はどうしたの?」
「これは旦那様と奥様から、スノー様への誕生日プレゼントです。」
そうだ、今日は1月20日……私の誕生日だった。
誕生日が四つあるから、誰がどれだかたまに分からなくなってしまう。
「どうぞ、重いので気をつけて下さい。」
箱を渡されたので受け取ると、ずっしりと重くて腕がもげるかと思った。
5歳児の体で女子大生と同じ事は出来ないから気をつけているんだけど、ついつい魔法を使える事を忘れてしまう時がある……取り敢えず一旦ベッドの上に置くか。
ドスンッ
フカフカの布団が、箱の重さで沈んでしまった。
赤いリボンと白い包み紙でラッピングされていて、私の体の半分位の大きさだ。
「お父様とお母様は、どうして私に直接渡さなかったの?」
「それは、開けられてから私がお伝えしますので。」
気になる……えいっ!
リボンを外してバリバリバリ……っと豪快に紙を破り、箱の蓋を勢い良く開けると、
「靴と……ドレス?」
「はい、それを身に着けてダイニングルームに行って下さい。」
出てきたのは、桃色の靴に桃色のドレス……どちらも女の子らしくて、私の好みではないが……。
「まあっ! こんなに可愛い靴とドレスを見たのは初めてだわ!」
メイドの手前、喜ぶしかない。
「そんなに喜ばれて、旦那様と奥様がオーダーメイドした甲斐がございますね。」
ニコッと笑うイザベラにも、ここにはいない父と母にも申し訳無いが、私は桃色とか女の子らしい服が苦手なのだ。
必死にオシャレをし、デートをしていたレイ時代を思い出してしまうから。
だけど、そんな事言えないし、良い暮らしをさせて貰っている手前……文句を言うなんて出来ないししたくない。
「イザベラ、着るのを手伝って頂戴。」
「かしこまりました。」
ネグリジェを脱ぎ、肌触りが少々良すぎるドレスに着替えるのが毎朝の日課。
たまにはトレーナーやデニムを身につけたくなるけれど、こコントラスト王国には存在しない。
靴だって……スニーカーを履きたい時がある。
桃色で飾り付きの靴じゃなくて、少し安くなったハイカットスニーカーが恋しい。
美咲の世界の物が、何もかも恋しい……人も場所も物も。
「この靴、とても履きやすくて良いわね! ドレスも後ろのリボンが可愛いわ!」
「スノー様、プレゼントはまだありますよ。」
イザベラが箱に目線をやった。
気になって中を覗いてみると、そこには一冊の絵本が入っている。
「なになに……『ゆうしゃとごにんのなかまたち』? 可愛らしい絵ね。」
「はい、その絵本はコントラストで今年ベストセラーになった物です。言い伝えられてきた話を絵本にしたらしいです。」
「そうなのね……教えてくれてありがとう。」
「いえいえ、そろそろ朝食の時間になりますので、旦那様と奥様の元に行ってください……あっ。」
何かを言いかけたみたい……こういうのって、いつになっても気になるものだ。
「どうしたの?」
「……お、お誕生日おめでとうございます。よろしければこれを……。」
イザベラは顔を赤らめて、メイド服のポケットから小さな紙袋を取り出して渡してくる。
「今日の夜に開かれる誕生日パーティーで沢山プレゼントを貰うのでしょうし……いらなかったら捨てても構いませんから……。」
俯いて言われるが、身近にいる唯一の同年代の女の子から貰える物を捨てる訳がない。
中身は気になるけれど、今回は袋を破かない様に慎重に開けると……。
「押し花の……しおり?」
中から出て来たのは、透明のプレートで……その中にはいろいろな種類の押し花が挟まれている。
「今……城下町で流行している、ガラスとガラスの間に押し花を挟んだしおりです。スノー様は本を良くお読みになられるので、使えるかもしれないと勝手ながら思いました。」
色とりどりの花が、本当に綺麗だ……。
「凄く嬉しいわ! ありがとう……一生大事にする!!」
「お世辞でもそう言っていただけて嬉しいです……!」
「お世辞なんかじゃない、心から嬉しいのよ。挟まれている花は、自分で選べたりするの?」
「はい……金箔も入れれるのですが、私のお小遣いでは無理でした……。」
いや、これは金箔なんていらない。
花の組み合わせにセンスがあるし、金箔を入れない方が色とりどりの花に目がいって……。
「これでいい……これがいいのよ。大事に使うわね!」
スノーの宝物が、一つ出来た瞬間だ。