かくれんぼpart1
「「「さいしょーはリュー、いっせーいの!!」」」
俺がリュー、スノーホワイトがチェイ、シエナがパー。
「「「いっせーいの!!」」」
パー、リュー、パー。
「私が鬼ね。」
丸めた拳を見ながら、スノーホワイトが妙な事を言う。
「何だよ、鬼って。今はかくれんぼだぞ、お前はいっせーので負けたから見つけ者だろ。」
かくれんぼっていうのは、勝ち負けを決める『いっせーの』で『拳』『二本指』『五本指』の3つを使い、隠れる者を探す見つけ者と見つけ者から隠れる隠れ者を決めて遊ぶものだ。
鬼とは全く関係がないのに、スノーホワイトは7歳になっても度々間違える。物覚えが悪すぎるだろ。
「ライ、スノーは言い間違えただけだよ。そんなにきつく言わなくてもいいでしょう?」
妹のくせに生意気なシエナ、いつもスノーホワイトの肩を持つ。
俺の妹なのに……べ、別に寂しいなんて思ってないけどな!!
「なんで顔赤らめているの?」
涼しい顔で聞くな!
顔がもっと赤くなるだろう……って、俺は顔を赤らめてなんかいないぞ!
「まあ、そんな事どうでも良いのだけれど、シエナはとっくに走って行ったわよ。」
スノーホワイトに言われて気づいた、シエナがいない。
俺達三人が思いっきり遊んでも良い部屋である《活動の間》には、俺とスノーホワイトしかいないではないか。
「あと30秒。」
「待て待て! 今逃げるから!!」
ぼーっと突っ立っている俺を瞳に映さずに、スノーホワイトは大きなリボンのついた後頭部を俺に向けてカウントを取り続ける。
柱に軽く体を付け「28、27、26……。」とリズミカルに。
俺はハッとし、急いで活動の間を出た。
今日は父さんにも執事にも内緒で、城内かくれんぼをするんだ。
怒られる覚悟でスノーホワイトとシエナに話したら、たまになら……と堅物が賛同したんだ。
こんな楽しい機会を逃す訳にはいかない!!
活動の間の大きな扉を開け、俺はとてつもなく広く長い廊下へと飛び出した。
「はっはっはっはぁっ。」
美咲……じゃなかった、スノーはもうそろそろ探し始めた頃かな……1分は経ったよね?
それにしても、お城ってこんなに広かったの?
活動の間を出てから取り敢えず2階にこっそり降りたけど、こんなに部屋があるなんて知らなかった。
まず、階段までの廊下で「走らないで下さい!」とメイドに怒られて疲れたし、階段の下にいる1人の警備兵の隙をついて通るのに体力使ったし。
だけど、3階から動かなければスノーに捕まってしまうだろうし。
こんな事になるなら、高校と大学で世界史……特に、城の構造とか勉強しとくんだった。
……あれ、なんだか人の気配がする様なしない様な……。
「ねえねえ、明日の休日は一緒に《ハリケーン》に行けるんだよね?」
2階の廊下(方角は不明)を走っていたら、左の曲がり角の方から女性の声が聞こえてくる。きっと、メイドだろう。
見つからない為に、私は乱れた呼吸を整える。
「ああ、明日の為に服を新調したという君の姿を早く見たいんだから、行かない訳がないじゃないか!」
今度は野太い男性の声。
この感じ、恋人か? 城にいるという事は兵士なのだと思うが……全く、今城下町で人気の喫茶《ハリケーン》でデートとは。
私だってあそこのシロップシロップふわふわとろぉ~りシロップトースト食べたいのに。
「もうっ♡」
「ハハッ☆」
……あれ、何も聞こえなくなった。
何処かの部屋に入ったにしては、扉の開く音も閉まる音も聞こえないけれど……このままでは通れないし覗いてみるか。
「……。」
白い壁にピタッと張り付き、美咲と見たスパイ映画の女スパイを思い出しながら覗いた……のだが、私の体は見事に固まってしまう。
「んっ……ふぁ。」
……これが、この状況が理由。
「……。」
見てない、私は……シエナは何も見ていない。
兵士に強引に迫るメイドなんて、見ていないんだ。
「ちょっ……待っ…て、訓練があるんっ!」
「あなたが午後から休みを取ってるって、私は知ってるのよ? 何? 私へのプレゼントでも買いに行くの?」
「なんっ……で知って……ひゃんっ!」
見てない、日に焼けた耳たぶに薄い唇がくっついた所なんて私は見ていない。
「だっ、誰かに見られたら……。」
「見せつけようよ、興奮しない?」
「恥ずかしい事言うなよ!!」
お二人さん、ちょっとばかり声が大きいぜ。
……今のうちに、ここ通るか。
道なりに走ったが、勿論音をたてずに走ったのでメイド攻め×兵士受けというジャンルのカップルには気づかれなかった。
「な、なぁ……今さ、シエナ姫っぽい子がいなかった?」
「まさか、ライ様でもあるまいし2階になんかいないでしょ。それより、この続きは明日ね。」
「ふぁいっ♡」
「2、1、0! さて、探しに行くか。」




