作戦 part2
「それで、参考書……じゃなくて。その本には、何が書かれていたの?」
「たっ、確か『勇者の剣』なら……。」
息を少し切らせながらライは答えたが、返事の最後が途切れたのは苦しいからではない。
それは、私もソレアも分かっていて。
「分かったわ。その、勇者の剣は何処にあるの?」
「「……え?」」
ライとソレアの声が重なる。
こんな状況だというのに、かなり間の抜けた顔だ。
「どうしたの、目を点にして。」
「いや……。」
ライ、何が嫌だというの。
「それは……。」
ソレア、いいから早く答えて頂戴。
「……スノーホワイト、お前が持っているんじゃないか?」
……………あ。
「それ、捨てたのだけれど……。」
私が言った瞬間、点になっていた目から黒目が消えたかと思う程に二人は目を見開いた。
人差し指に炎魔法で小さな灯りを灯している事により、暗い中浮かび上がる顔はホラー映画にもなりうる。
そして、ホラーな顔は大きく口を開け。
「「えええええっムグッ。」」
「静かに。」
叫ぶ事は予想出来、炎が灯されている右手でライの口。
何も持っていない左手で、ソレアの口を塞ぐ。
すると、ただでさえ息が切れていたライは、苦しいのか顔をしかめる。
私は一度足を止めた。
「ごめん。けれど、静かにしないとバレてしまう。」
二人の口から手を離すと、両手が湿っていた。
うん、ここは湿度が高いし、鼻息荒かったから仕方ない……ええ。
「今の二人の反応で、私が何かまずい事をした……それは理解出来る。あの時は大事な物だと思わなかったから、海に投げ捨ててしまった。」
「勇者様の剣を投げ……。」
顎が外れたのかと思う程、ソレアの口が開く。
「悪かった、本当に悪かったわ。ただ、今から海に潜って何年も前に捨てた剣を探すなんて出来ない。ライ、他の方法はないの?」
私は両手が開いたので、質問しつつまた走り出す。
これに、ソレアはついてきたのだが。
「ライ様……ではなく、ライ……君?」
律儀に君付けされるライは、私の手のひらが湿った場所から動こうとしない。
それに気づいたソレアが話しかける。勿論、これまでの会話も、今回の会話も全てギリギリ聞き取れるくらいの小声だ。
「ライ君、どうしたの?」
「思い出したんだ、勇者の剣以外の殺し方……いや、とどめのさし方。」
口を塞いだ時に私の炎で若干前髪の焦げたライは、何か震えている様で。
その感情が、スノーにひしひしと伝わってくる。
スノーの心までもが乱され、炎が一瞬……高く燃え上がり、真上の土がぽろぽろとこぼれ落ちた。
「ライ君、早く行かないと……。」
立ち止まったものの、地響きが強くなる度に刻一刻と兵が近づいて来ている……その事実に焦りを隠せないソレアは急かす。
このままでは、ちょっとした事でパニックを起こしそうだ。ソレアも、ライも。
「ソレア……大丈夫よ。」
私よりも低い位置にある肩に、ポン……と手を置く。
それだけで、ソレアの方の力が抜ける。
「あっ……あたし、少し急いでた。いや、急がないと駄目なんだけど、一旦落ち着いた方が良いね。」
少しだけ、ほんの少しだけ笑顔が見えた。
ぎこちないけれど、暗いこの場所で全然不気味に思えない笑顔を。
「ライも、大丈夫。何か……何か、思い出したのでしょう? それがどんなやり方でも、私は絶対に成功させるわ。勇者の剣を紛失させた者として。」
両手をライの両肩に置く。
軽く、しかしがっしりと掴む。
子供の頃とは違う薄汚れた服に身を包んだ体は、もうあの時の面影をほとんど残さない。
昔、かくれんぼをした時に見つけた、顎の下の黒子だけは同じだ。
「……ハハハハ。」
乾いた笑い声は、響く事無く途切れる。
「ったく、子供扱いすんじゃねーよ。ばーか。」
今、表情に面影が見えた。
勉強だけは出来る悪ガキの面影。
悪ガキは私の手を優しく払い、走り出す。
今度はライについて行く
「馬鹿とはなによ、馬鹿とは。いつもの調子を取り戻したのは良いけれど、それならさっさと教えて。時間無いんだから。」
「はいはい、魔王の倒し方はもう一つある。こっちの方が、ある意味正規のやり方かもしれない。」
「そのやり方って……?」
恐る恐る、ソレアが聞く。
「本には『魔王が右手で首を掻いたら、人間の武器ではすぐに治ってしまった傷が出来、血が流れた。」と書いてある。」
それはつまり……。
「勇者の剣には、魔王の爪の欠片が配合されている。それで倒せるという事は、あいつの……シエナの体の一部を奪えれば、きっと……。」
体の一部を奪う、又は。
「又は、自ら命を絶ってもらう……か。」
正直、俺はスノーホワイトに対して恐怖を感じた。
こいつは、こんな奴だったのか?
信じられなくて、信じたくもなくて。
だからきっと、子供時代の思い出を鮮明に思い出してしまったんだ。
こんなタイミングで。
何故かしら、何か思い出した気がする。
「シエナ様、こちらの町ですが……。」
「あとにして頂戴、アーサー。」
何か、何か分かりそうで分からない。
この記憶は私のものなの?
こんな感情を抱いていたというの?
……まさかね。
まあ、時間はまだあるし、いつか役に立つかもしれないもの。
少し浸ってみても良いわよね。




