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奇襲

涙がテーブルに落ちた時、どうにもならない気持ちになる。

何をしたら良いのか分からない。

こんな、意味の分からない気持ちになった事は、これまでの人生であったのだろうか?

それすらも分からない、記憶の中にはないが……この気持ちは体がむず痒くなる。

居心地が悪い。

自分の知らない気持ちに支配されるのは、()()()()()()()苦手でたまらない。


「綺麗事を言うな!!」


私は勢いよく、お母様の少し痩せた手を振り払う。

これしか出来ない、正しくないと分かっていても、この気持ちにはこうする事しか出来ない。

驚いた様で、お母様は尻餅をついてしまった。

それでもなお、私に向かって優しく言い続ける。


「スノーがどんな事をしていようと、可愛い我が子に変わりはないのです。愛している事に変わりはないのです。」


迷いのない目で言われると、こぼれ落ちる涙を止められなくなる。

そんなに真っ直ぐ見つめないで……お願いだから、私から目をそらして。

今……そんな事されたら、我慢できなくなってしまう。


「お……。」


駄目、スノーホワイト。

あなたがそんな事を言う資格はないの。

だけど、もう我慢が出来ないの。


「おっ、お母さ……。」


だが、運命は私達親子の邪魔をする。

私の言葉を遮る、ドーンッ……という轟音が地下全体に鳴り響いた。

それだけで、皆分かる。地下の隠れ家が敵に見つかったと。


「い、いかん!! 民を逃がさねば!!」


王がいち早く反応し、締め切られた部屋を出て行く。

それに釣られて、部屋に残された私達も走る王の後ろを追いかける。

涙なんて、流していられない。

腕で拭うと、それは止まった。




「皆の者、落ち着いて行動するのだ!! 誘導係は脱出口まで誘導し、森の中で人々を守れ!!」


地下で一番広い、広場の様な場所に集まった人達に、少し高い場所から王が声を張り上げて指示する。

ここに集まっているのは、およそ5000人……こんな人数が暮らしているとは思わなかった。

それと同時に、何故これほど広い地下空間があるのか、残りの城下町の住人はどこにいるのか……という二つの疑問が生まれる。

だが、質問をしている場合ではない。

予めもしもの場合に人々を誘導する係の100人程が、先頭を行く者と一番後ろで武器を持つ者の二つに分かれ、森へと繋がる通路に早歩きで進む。

その間、誰もしゃべらない。

大きな音を出して良い事などないからだ。

……しかし妙だな。

何故敵は私達が気付くであろう轟音を出した?

黙って地下牢の壁に開いた穴から、静かに入ってくれば良かったのでは?


「クソッ、魔力こぼれを見つけたか。」


王の後ろで待機する私達には、ソレアの一言が聞こえた。

魔力こぼれ……それは、何かを消す魔法を使った時に、魔力の主張が強すぎて魔法に負けてしまう現象の事。

魔力こぼれは勘が鋭い人なら感知出来る、部屋の角に少しだけ溜まった埃に気づく様な……机の上にある小さな消しゴムのカスに気づく様な……いや、これではただ気が利くという意味になる。

とにかく、残りカスだ。

確かソレアは、魔法で石壁を元に戻していた。

それだけで魔力こぼれは起こさないと思うけど……。


「ごめん、あたしが地下道とここに繋がる扉が閉まる前に、掘った穴を奥から崩したんだ。正確には魔法液をかけて()()()()()()()()()が元に戻っただけなんだけど……。」


物体を無い事にする魔法液、かなり高等な調合をしなければ出来ないはず。

そんな物が身近で使われたというのは、かなり驚きだ。

元に戻ったという事は、制限時間がある魔法液……それは、一番安価な物か一番高価な物のどちらか。

この場合は疑う余地もなく高価だと分かる。


「ソレアのせいではない、私達を助けに来てくれた事には本当に感謝している。今は前々からシミュレーションしていた作戦を実行するのに一番最適な瞬間なのだ。」


「その作戦とは……。」


私だけ訳が分からないので、先程までの態度もあり遠慮がちに聞く。

それに対し、王は重々しく口を開いた。

その目には少々涙が溜まっている様にも見える。


「……シエナ……討伐作戦だ。」


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