15歳
……あの日から、なんとかしてコントラストに入れないかと、様々な手段で挑戦した。
最初に挑戦したのは、警備兵の交代の時間に通り抜ける作戦。
だけど、様子見に行った時点で隙を見つける事は出来なかった。
次に挑戦したのは真夜中に、ほうきで山を越える作戦。
だが、夜は警備兵が上空の巡回をしていて通れなかった。
沢山方法を試してみたけれど、想像以上に国境を越える事は困難だ。
挑戦を繰り返していくうちに、月日はあっという間に流れていった。
そして、いなくなってから半年程経った頃、私は裏の世界に出入りするようになった。
表では出回らない情報を入手出来ると、ギャンブル仲間に教えてもらった。
そいつは裏世界の下っ端で、入手する際に行く酒場まで教えてくれた。
「ここ……か。」
酒場はシエドーの『マラストーン』という人口2.5万程の比較的
大きな町にあり、店名は『ベビーダック』という。
ギャンブルも大体は普通の酒場で行われているが、この酒場は店構えと店名からだけで十分怪しさを感じさせる。
木の扉を開けると、ガラの悪い男達が酒を飲んでいたが、一斉に私の方を向く。
注目されているが、気に止めずにカウンターにいる店主の元へ。
「嬢ちゃん、ここは子供が来る所じゃねぇぜ。夜なんだから、家に帰って母ちゃんの飯でも食ってろ。」
グラスを磨く店主は、鋭い目付きで睨んでくるが、こんなの怖いワケがない。
「店主、ミルクをストレートで。」
私が言うと、店主は一瞬驚いた顔をする。
テーブル席では男達が私を笑っているが、この意味が分からなければ……まだ表の人間だ。
「……よく見れば、嬢ちゃんもこっち側か。目付きで分かるぜ……。」
「余計な戯言はいらない、さっさとミルクをストレートで!!」
私が急かすと、店主が金色の鍵を渡してくる。
「おっかねえな、俺よりも場数は踏んでそうだ。一体……何者だ?」
「客の個人情報は、原則聞かない約束でしょ? 何年ここにいるのかしら。」
私が鍵を受け取ると、店の奥にある扉に案内される。
ここの扉は、店主がポケットから出した鍵で開けてくれた。
「こっから先は、俺には入れねぇ。気を付けろよ。」
「余計なお世話だけど、ありがとうね。」
扉を開くと少し空間を空けて、もうひとつの扉が現れた。
「じゃあ、またな。」
店主はそう言って、最初に開けた扉を閉めた。
「さて……と。」
真っ暗な中、もう1つの扉を解錠する。
その先には石の壁と床で出来た、先の見えない廊下が続いている。
壁には定期的にろうそくが刺さっており、少しは役に立っている。
10分程歩くと、今度は鉄の扉が現れた。
「ミルクをストレートで!!」
私が大きな声で言うと、ゴトンッ……と音が鳴った。
1月23日、3日前……酒場に行った日に、私はこの世界で成人と認められる15歳になった。
3日前、やっと有力な情報が手に入ったので、今日は久しぶりに国境近くへ来ている。
「……寒いのについて来てくれて、ありがとうね。」
「ニャウニャーオ。」
ここは吹雪いてない時なんて滅多にない、魔界山のシエドー側だ。
情報をくれた人物によると、魔界山には切り立った崖があるらしい。
そこは兵を配置出来ない程の強風が、常に崖下から吹き続ける場所の様で、そこが唯一国境を突破出来る場所のようだ。
だけど、最初にそこを見つけた人は、強風に煽られ崖下に転落して帰ってこなかったと。
その人と共に行動していた人達が、山を降りた後に突破口の話を広めたらしい。
話の内容は「らしい」だらけだけど、信憑性は十分にあると判断した。
来てみたところ……結果は大当たり、周辺には兵がいなかった。
後はどうやって、崖下に転落しない様に渡るかだ。
転落死は二度としたくないので、ここは慎重に行動する。
「氷よ、我が落ちぬよう橋をかけたまえ。」
私が言うと、勢いよく水が飛び出し、すぐに凍ってゆく。
いたって普通な橋がかかったが、強風の問題は解決していない。
「風よ、我の行く手を阻む力を底に押さえつけろ。」
今度は手のひらから、勢いよく風が出た。
大きい崖の入り口いっぱいに広がると、一斉に強風を押さえつけていく。
最初は、ぶつかり合う時の、凄まじい轟音が恐怖を感じさせた。
だが、次第に風と音は弱くなっていき、そよ風程度しか吹かなくなるり
私の魔法が風を押さえてくれている間に、ミシュリーと橋を渡った。
ちなみにミシュリーは、人間なんかよりも寒さに強い。
それと、下からの風は押さえられたけれど、吹雪いている事実は変わらない。
急ぎつつも、気をつけて氷の橋を渡った。
渡りきれば、そこはもうコントラスト王国内。
景色は変わらず吹雪いているが実に約5年ぶりに、母国へ帰る事が出来た。
約束を守る為に家出したのだが、結局柚の生まれ変りらしき人はいないし、アーサー以外の転生者も見つからなかった。
そのアーサーも、いなくなってしまった。
だけど、平和なコントラストに帰ってこれたのは、嬉しかった。
シエドーも良い国だけど、平和とは言い難かったから。
まあ、コントラストでも山賊はいるけれど。
そこから、山をひたすら降りた。
シエドー程ではないが、コントラスト側もかなり荒れている。
ほうきが使い物にならない暴風雪の中、洞窟で野宿したり雪山に住む動物を食べたりして、ひたすら前に進んだ。
途中に集落があったはずだけど、吹雪いていて方向感覚がおかしくなっているのか、立ち寄った集落を見つけられないまま、下山してしまった。
下山すると、雪は少ししか降っていなかったので、ミシュリーと喜んだ。
だけど、麓町に着いて……知ってしまったのだ。
コントラストが今置かれている、悲惨な状況を……私は知ってしまった。




