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14歳

そこらじゅうで色とりどりの花が咲き誇り、花粉症ではない私が大好きな季節……春がきた。

いつもなら、浮かれてスイーツの暴飲暴食をする所だが、今回の春はそんな事やってられない。

私が14歳、アーサーが15歳で迎えた……気持ちの良い春。


コントラストとシエドーの国境が、すべて閉鎖された。


なお、この世界は『コントラスト』『シエドー』『マレムニア』『カレスタン』『サリアロア』……計五つの王国がある。

『コントラスト』と『シエドー』は隣国で、同じ大陸に位置する。

『マレムニア』と『カレスタン』も同じ大陸で、唯一『サリアロア』だけが、一つの島だけで形成させる王国だ。


コントラストとシエドーは、隣り合っている面積が広いので、国境を閉鎖するとなると、かなりの人出とお金がかかる。

何故国境が閉鎖されたのか?……それは、国の要人だけが知る事で、双方の国民が疑問に思っても、答えが出る事はなかった。


「アーサー、何が起きているかは分からないけれど、とても嫌な予感がするの。」


シエドー内陸部の町を歩きながら、隣にいるアーサーに話しかける。

今や見上げなければ、目を合わせられない程に身長が伸びていて、幼かった顔は大人に近づき、女の子の様だった声はすっかり低くなっている。


「ええ、僕もです。……もしも、予感が当たったとしたら、僕は命をかけてスノーを守ります。」


アーサーはここ一年で、一丁前なセリフを吐くようになった。

セリフだけではなく、私が賞金稼ぎをしているとバレた時は、自分の身の様に心配してくれた。

今では日によって、私よりも稼いでくる事もある。


「……私が守ってあげるわ、だから守られていなさい。」


本当は『守る』と言ってくれて嬉しかった。

だけど、それは私の傷のせいだと思うの。

これのせいでアーサーを縛り付け、同情を別の感情と勘違いしている……そう思いたい。


「それは出来ません。」


……そんなにきっぱり言われたら、どうしようもないじゃない。

こんな感情、レイがとっくに置いてきたはずなのに……見つめてくる瞳から顔がそらせない。


「僕はスノーより腕力も脚力も体力もあります。身長だって180㎝を超えたし……。」


「アーサーには、アーサーの人生があるんじゃないの?」


本当はこんな事言いたくないよ。


「もう十分一人で生きていけるんだし……やりたい事が出来たり……旅先で好きな人でも出来たら、遠慮せずに私の元から離れて頂戴。」


私がそう言って、顔を背けた時……。


「あの時のスノーの様に、今度は僕が盾になります。絶対に守り切ります。」


……私の耳に、アーサーの吐息がかかる。

この体を抱きしめる腕は、四年前のモノとは全く違う。

ぷにぷにだった腕には程よい筋肉がつき、山賊に斬りつけられた足の傷跡は、身長が伸びる度に薄くなりながら一緒に伸びている。

……ああ、この感じ……覚えてる。

『彼』に抱きしめられた時の、あの気持ち……って何思ってんのよスノー!!

常に冷静でいる事こそ、急に攻撃されても逃げられるでしょ!

今この瞬間、ペガサス車が突っ込んできたら人生終わるよ!


「……ゴホン。あのさ、遠慮なく盾にしたいのは、やまやまなんだけど……周囲の目線を集めるのは、やめてくれるかな?」


嬉しくない事もないが、今いるのは地方だけどその中でも中心に近い街並みを歩いていたワケで。


「今時の若者は情熱的だねぇ、爺さん。」

「婆さんにもしてやろうか?」

「こんな所じゃ嫌よ、家に帰りましょう?」


「あのお姉ちゃんとお兄ちゃんチューするのー?」

「あっ、すみません! こらっ、そういう事は人前で言わないの!」

「ママはパパとしてるじゃん!」

「か、帰るよ!」


「やーん、うちらもするぅ?」

「お前は甘えん坊さんだなぁ。」

「だって好きなんだもーん!」



アーサーは勢いよく私から離れ、顔を赤らめる。


「迷惑かけてすみませんでした!」


「……ほれ、この位ならいいわよ?」


そう言って片手をアーサーに向ける。


「……お金……今は手持ちがあまりなくて。」


……。


「…っ、あははははっ!!馬鹿だねぇ~……手を貸しなって言ってるの!」


強引に手を握ると、私よりも大きく、がっしりとした手だった。

もっと顔を赤くして、今にもぶっ倒れそうなアーサーと、それからしばらく町を歩いた。


嫌な予感が消えたワケではない。

むしろ不安が積もる一方だ。

だけど……この人と一緒なら……この人なら私を裏切りはしない気がする。


私の勘は、当たってくれるだろうか。




すっかり日が落ちた頃、宿に戻って新鮮な海の幸を使った夕食をたらふく食べた。

どの幸も美味しくて、出来る事ならばどこかの人生で食べた『寿司』にしてみたい。



最近、日ごろのストレスと緊張が減った気がする。

新たな不安は出て来たが、それとこれとはまた別で。

ローブのおかげか、青い瞳が無くなったおかげか。

それともシエドー王国に来たからか、私を探そうとする追っ手は、12歳から見ていない。

そのため、偽名は使い続けているけれど、ローブのフードを被る時間が少し減った。

肩が少し……軽くなったんだよ。




夜、アーサーとは少し離れた位置に布団を敷き、眠りについた。

久しぶりに『恋』らしき事を味わったせいなのか、幸せな夢を見た気がする。


だけど、こいつに最初あった時感じた気持ちは……何だったのか。

それだけは、謎のまま年月が経ってきたわ。




朝、相変わらず4時起きが続いている。

私は窓を開けて、落ちない程度に身を乗り出す。


「ん~、空気がおいしいなぁ。」


丁度日が昇り始め、朝焼けがとても綺麗だ。

今回は宿の二階に泊っているのだが、海の見える窓と山の見える窓が部屋にあるから、様々な景色が楽しめて……いっそ、ここに住んでしまいたい位。


「フニャァァ。」


そうこうしていたら、ミシュリーも起きたので、久しぶりに二人(一人と一匹)で散歩(という名のジョギング)に行く事にした。

十分空気は吸ったので、静かに窓を閉め、幸せそうな寝顔のアーサーは、起こさなかった。

代わりに帰ってくる前に起きた場合、心配しない様に書置きを残す。

おまけでスヤスヤ眠っている寝顔の額に、軽くキスをして宿を出た。

これがスノーのファーストキスかもしれない……額にだけどね。


「ミシュリー、それじゃあ走るよぉっ!!」


「ニャァァァアアッ!!」




5時過ぎに宿に戻ってみると、アーサーがいなかった。


閉めたはずの窓は割れていて、ガラスの破片がそこら中に散乱している。


私は宿代と窓の修理費を部屋に置いて、宿を出た。


書置きの紙裏には『コントラスト』……とだけ、書かれていた。





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