13歳
ザザーンッ
「暑いな。」
ジリジリと照りつける日差しで、甲冑がすっかり熱くなってしまった。
今日位は脱いでも良いかも……と、思うほどに。
「そう言いながら、来てもいいって言ってくれたじゃないですか!」
アーサーは、小さい子の様に目をキラキラ輝かせて私を見てくる。
「はいはい、それじゃ行ってらっしゃい。」
「いぇーい!」
アーサーがこんなにもはしゃぐには、しっかりした理由がある。
私達はシエドーの国境沿いの村や町を回っていた。
シエドーはコントラストの北に位置する大国で、とてもとても国土が広い。
この世界に存在する国の中でも、圧倒的な面積を誇る。
だから、進んでも進んでも……全然景色が変わらなかった。
ほうきで飛ぶのも良いのだが、シエドーではほうきに乗る文化があまり浸透しておらず、代わりに木の板や布に乗って飛ぶ文化だ。
一応チャレンジしたものの、バランスの取り方が全く違い、難しすぎたので諦めた。
目立つといけないので、ひたすら偽名を使ったりほうきで飛んだりせずに、ただただ歩いた。
そして、歩き旅が2年程過ぎて……やっと、海沿いに着いたのだ!
そんなこんなで今日はシエドーの海沿いの村に、泊まる事になったのだが、
「しょっぱ!」
海を見た事がなかったアーサーは、珍しくこんな感じに……。
「スノーも入りませんか?気持ちいいですよ!」
こんなに楽しそうに誘われたら、入らないわけにはいかない。
一応宿で水着(近くで売っていた)に着替えて、甲冑の下に着てきてきていた。
日差しはますます強くなり、甲冑を着ているのも限界になった所で、
「うん、今行くから。」
私は包帯で片目を隠した状態で、甲冑を脱いだ。
その下に着ていたのは、シエドーで今季流行りの水着。
すると、アーサーは顔を赤らめて。
「スノー、人前で露出の多い服はダメです!」
珍しくきつい口調で、怒ってる……?
いやいや。
「あんたが入れって言ったでしょ!」
「ビキニを着れとは言ってません!」
「変だっていうワケ!?」
私が言うと、アーサーが言い返すのを一旦止めて……。
「綺麗ですよ……周りの男共が注目する位!」
……そう言われて、クルッと振り返ってみると、確かにアーサーの言う通り、注目されている。
13歳にしては、発育が良い方かもしれない。
だけど、包帯を巻いている事と、甲冑を目の前で脱いだ事も関係するだろう。
今時甲冑を常時着ている人……まして、女子なんて珍しすぎるからね。
……じゃあ脱げば?って話だけど、この甲冑と今日は宿に置いてきたローブは、私の思い出の品だから捨てるわけにはいかないし、着ないわけにもいかない。
「アーサー、気にしすぎだから。夏だし海だし、思いっきり楽しまなきゃ!」
アーサーはまだ、少しふてくされているが、
「……スノーがそう言うのなら。」
と、機嫌を直してくれた。
「宿で留守番のミシュリーには、ちょっと悪いけどね。まあ、海嫌いだし。」
「今頃、部屋に置いてきた、新鮮な海産物の料理をたらふく食べているでしょう。」
そうだった、海辺の村だから、海産物が凄い美味しいんだった。
「じゃあ、心配いらないね!」
「はい、水魔法で水合戦でもしましょう!」
……アーサーには、出会った当初から私が勉強や魔法を教えてきた。
特に魔法に力を入れていて、筋が良かったのか教え方が良かったのか、14歳のアーサーは大学生並みの魔法を使える様になった。
私とは違い、魔法以外の勉学でも才能を見せ、教えた事はスラスラ頭に入っていくらしい。
正直こんな人が集落で暮らし続けていたら、才能の持ち腐れだし良くない輩に利用されていた可能性も考えられる。
あの時……食事作れるからって連れてきて、本当に良かったと毎日の様に感じている。
「負けないからね!!」
「僕だって!」
この時の私は、この先起こる事なんて、知るわけもなかった。
ただただ、平和ボケをしまくっていただけ。




