12歳
パチパチパチ……
目の前では、木が音をたてながら、踊るように燃えている。
パチパチパチッ
今度はすぐ横から、私に向けての拍手が送られる。
「12歳の誕生日、おめでとうございます!」
アーサーが、毛皮の中に入ったまま私を祝ってくれる。
「ありがとう……なんか、ホントごめんね……。」
私も毛皮の中に入ったまま答える。
実は……今日は私の誕生日、すなわち1月20日だ。
こんな日なのに、今……洞窟で焚き火をしながら、朝を迎えてしまった。
洞窟は入り口が狭くて、奥に行くほど広い……寝泊まりするには最適だ。
しかし、急な崩落があったり、奥に危険な野性動物が潜んでいる可能性が、十分にある。
快適ではあるが、それ相応のリスクを負わなければならないのが、洞窟内で野宿する時のお約束。
ちなみにこんな事になったのは、全部私のせいだ。
「しっかり地図を見なかったから、雪山で遭難しちゃうなんて……。吹雪だから、ほうきで飛べないし。」
外では轟音と共に、暴風雪雷が絶え間なく続いている。
「いいえ、幸い昨日スノーが、魔害獣の皮で寝袋を作ってくれたので、僕もミシュリーも暖かく過ごせました!」
「ニャー、ニャオーニャ。」
ああ、二人(一人と一匹)にフォローされるなんて……。
だけど、確かに昨日洞窟を見つけたら、ホワイトアウトしているのに後ろから魔害獣が襲ってきて……ある意味運が良かったのかも。
熊が突然変異したタイプだったから、肉とか内臓は取って食べれる部位は食べて、残った部位は雪の下に埋めて冷凍をし、山を降りたら麓町にでも売れば良い。
毛皮は……まあ、色々作業をして寝袋代わりに。
大きな魔害獣だったから、二人で1つを使う事が出来た。
ミシュリーも入れたので、誰一人凍える言葉だ無く一晩を越せた。
「この寝袋、思ったよりも暖かいから、ペンダントに入れておこうか。」
私が毛皮を触りながら提案する。
「それは名案ですね!お金に困ったら、売ればいいですし……ってあれ?」
ギクッ
「旅はもうすぐ丸二年になるというのに、働かないで……おまけとタダ飯はあるとして……よく、お金無くらないですね。」
ギクギクッ
「もしかして……。」
ギクギクギクッ
「僕に内緒で、内職をしてるんじゃ!」
……セーフ!
「いや、ただ……公爵令嬢ともなれば、今までに貯めていたお小遣いの額が、半端ないだけよ。」
「なーんだ、だけど……これからは、少し働かないとダメですね。貯蓄はあっても困りませんから!」
真面目少年アーサー(後10日で13歳)は、私の言う事を全く疑わない。
本当は酒場の掲示板に貼られている、懸賞金の高い魔害獣狩りを夜中にしたり(この際は自分で洗濯)。
ある時は、夜中にギャンブル(合法的な)で儲けたり。
あ、ちなみに、レイが天井裏からギャンブルをするターゲットを監視していたおかげで、これまで一度も負けなしね!!
それと、シエドーはお金さえ持っていれば、何歳でもギャンブルが出来る(コントラストじゃ考えられない)。
何故こんな事をしているかと言うと、旅に出た時のお小遣いは、意外と早く無くなっちゃったんだよ。
よく考えてみれば、お小遣い関係なく、欲しいものはいつでも買ってもらえたからな~。
貯金箱には500レン硬貨と100レン硬貨と10レン硬貨ばかり入ってて、1000レン札1枚無かった。
……元気にしてるかな、スノーの両親。
今頃何しているのかな……と、思っていたらアーサーが小声で話しかけてきた。
「スノー、大変です。」
どうしたのかな……少し震えている様だけど。
「ど、洞窟の奥に……。」
そう言われて見てみれば、あらビックリ。
「ガルルルルル……。」
魔力が強くて突然変異した、魔害獣犬の群が威嚇してきていた。
その中の一匹と目が合ってしまい、もう顔をそらす事は出来なくなった。
群の今まで気配を感じなかった事から、この洞窟がよほど奥まで続いている……もしくは、奥の方に別の出入口があるかだ。
「アーサー、今すぐ毛皮を出て。ミシュリーと入口側に移動して」
私は目が合った一匹と睨み合いながら指示を出す。
「ですが……僕だって戦えま……。」
「私の言うことを聞きなさい。」
アーサーだって、戦える事は分かっている。
しかし、私が魔法を教えてきたからか、そもそも才能があったのか……アーサーはメキメキと魔力を上げている。
その分、コントロール力が足りないから、まだ実戦に出すワケにはいかない。
背中側がモゾモゾと動き始めて、少し経つと側から人の温もりが消えた。
……その瞬間、私は毛皮から一気に出て群との戦闘体制に入る。
「ガルルッ!」
「我の前に、氷の壁を作り出せ!」
私の考えた作戦は、群とこちら側の間合いの真ん中に、洞窟の端から天井までを氷の壁で塞いでしまうというもの。
洞窟内はかなり広いから、魔力の消費量は憑依魔法と同等……壁を厚くすればもっと必要かもしれない。
「バウッ!」
「壁よ、厚くなり天井に届くまで伸び続け!」
ゴゴゴゴゴ……ガシーンッ
氷の壁をほとんど厚さが均等のまま、私の前に作り出す事には成功した。
しかし、高さがまだ十分ではなかった時に、一頭が壁を飛び越えてきた。
大きさや柄からいって、私と目が合った奴だ。
そして、助走無しでかなりのスピードを出し、襲いかかってきた。
「ガウゥッ!」
……ズシャッ
私の手には、枕元に置いておいた剣……2年前にアーサーから貰った剣が握られている。
「……ごめんね。」
魔害獣犬は、他の生物に感染する菌を保有している可能性が高い。
感染してしまえば待つのは『死』……出会ったら、逃げるか殺すかだ。
こいつが生まれてきた事に罪は無い……が、今回はどちらかが必ず死ぬ戦いだ。
私もこいつも、死ねないからこそ殺し合う。
噛みつこうと飛びかかって来た所を……やむを得ず返り討ちにしたのだ。
せめて一瞬で逝ける様に、首を瞬時に切り落とした……それだけが、今の私に出来る事。
この様子を壁の反対側から見ていた群は、尾を足の間に挟みながらさっていった。
「……こいつ、埋めてあげたいんだけどいいかな?」
「勿論です、スノー……ほら……雪が少しおさまってきましたよ。」
「ニャー。」
ああ、本当だ。
空からは少しだけ日が指し始め、風が止み、雷が轟くのを止め、雪はただしんしんと積もるだけ。
雪に日光が反射して、キラキラと輝いている。
たった今……1つの命を奪ったというのに、皮肉な程綺麗だ。




