表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/53

11歳

早朝……所々壁に隙間のある部屋に、私達は座っていた。

少し古い宿だけど、広さは十分にあって、朝晩食事付きというありがたい場所だ。


「あれから、もう一年かぁ~。」


私は目の前に座っているアーサーに、11歳の子供が言わなそうな事を何の違和感も無く、


「月日が流れるのは、なんとも早いモノだねぇ。」


……と、言った。

だってよく考えてみたら、コントラストを離れてから、もう1年が過ぎてしまったのだ。

私は11歳になり、アーサーは12歳(一つ年上だった)になった。

最初会った時は同じ位の身長だった私達だが、この1年でアーサーの身長はとても伸びた。

150㎝位だったのに、一気に10㎝近く……私なんて、2㎝も伸びてないのに。


「そうですねぇ、本当に早い……不思議な事です。」


アーサーはそう言って、目を細めている。

この1年間の事を思い出しているのだろうか……いや、それにしても、美少年だな。


「色々な経験が出来て、色々な事を学べた最高の1年間でした。」


ライとはまた違う感じの美少年……いかんいかんっ!

そりゃあさ、ツヤのある黒髪に海の様な緑の瞳は綺麗だけど、仮にも元大学生が小学生位の男子に見とれるなんて、我ながら自分が嫌になる。

こうした邪念は、吹き飛ばさなければ。


「そ、そうだ……今日はこの村を出ようと思うんだけど……。」


現在いる村は、シエドー王国の国境付近に位置する。

魔界山付近の大きな集落は、一通り回ってみた。

しかし、転生者の情報は無かったので、流れに身を任せたらこの土地に着いていた。


「了解しました、宿代は……。」


「えーっとね、三泊四日で6000レンだね。」


美咲の世界でいうと、6000レンは6000円程。

1レン=1円だ。


「なかなかお財布に優しい宿代ですね。」


アーサーは、なんだか主夫の様な事を口にする。


「うん、この村で薪割りとか、子供に魔法を教えたりとかしてたら、おまけしてくれたのよ。」




……私達は旅先で、様々な頼み事を聞いてきた。


「村の境目に柵を作ったのに、隣村の奴らが持って行っちまったんだ!」


「取り返して、2度とやらないと誓わせてきます!」


ある村では、柵の修理。



「うちの鶏が、魔害獣に全部食べられてしまって……。」


「魔力の突然変異で害獣から生まれる、更に強い害獣の事ですね。退治してきます!」


またある村では、魔害獣狩り。



「井戸が枯れてしまって……雨水も残り少なく……完璧に水魔法を使える者は、村には現在居なくて……。」


「新たな井戸を掘りましょう!見つけるまでの水は、私と隣の少年で作り出します!」


またまたある村では、井戸掘り。



「グァガァァァァァァッ!!」


「暴れんじゃねーっ!!」


またまたまたある村では、最近出没し始めたミニドラゴン狩りとかね。



「それにしても、今回の村は平和で良かったね~。」


うん……自分で言っておいて、今回泊まった村みたいに穏やかな頼み事だとなんだか先生になったみたいで楽しい。


「はい、血まみれのスノーを見ずに済みました。」


あれ、アーサーが細めていた目を更に、にっこりと曲げている。


「私……そんなに血まみれになってるかな?」


「はい。」


……アーサーには、いつも苦労かけてるなぁ。

家畜を食い殺した魔害獣の返り血で汚れた服、洗ってもらったり。

村人を食い殺したミニドラゴンの剥がれた鱗だらけの服、洗ってもらったり。


「いつも、ありがとうね。」


私は身支度をし始めたアーサーに、頭を下げてお礼を言った。


「いきなりなんですか?」


「ただ、お礼を言いたかっただけ。」


「……こちらこそ、ありがとうございます!」



……ありがとう……と私に言う少年は、私の事をどう思っているのだろうか。


最近私は、後悔している事がある。

片目を奪った山賊に、憑依魔法をかけた剣を使わなかった事だ。

最初から使っていれば、大怪我は負わなかっただろう。だって、炎を憑依させるだけで、魔害獣もミニドラゴンも一振りで殺せるから。

憑依魔法を使っていれば、アーサーに余計な感情を持たせる事は無かった。

あの日からたまに、寝言で私に「すみません。」「ごめんなさい。」と謝り続けるなんて事、きっと無かった。


「アーサー、行こうか。」


「はいっ!」


私は眼上の包帯に手を当てて、フードを被った。

顔を隠すためでもあるけれど、曇りきった赤い瞳をアーサーの目に映させたく無かったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ