一人目の転生者
家の外で桶の片付け等を手伝いながら、私は『話す事に』した。
「さて……一緒に旅に出るなら、私の事情を話しておこうか。」
私を見てきょとんとしているアーサーは、家族はもういないし集落には他に子供がいない。
親戚がいる……と聞いた事もないらしい。
すなわち、悲しいが今の所は天涯孤独の身だ。
だからどこかに、私の事を言いふらす可能性はないと思ったので、私が旅に出ている理由を話した。
この時集落の大人達が、恐ろしがってアーサーの家の近くにいなくて良かった。
今は盗み聞きはされないと分かっているが、なるべく小声で話した。
・貴族の娘である事
・親友との約束を果たすという事
・何故か頼まれた勇者の事
そして……。
「ここまで話した通り、私は異世界を何度も転生しているの」
詳しく伝えておいた方が良いと思い、シエナに話した時と同じくらい詳しく説明した。
すると、アーサーは少し考え込んで。
「転生者……あの……じゃあ僕も実は転生したっぽいんです。」
え!?
「そうなの!?」
「はい……今までは話す相手がいなくて、誰にも言った事がないのですが。」
まさかの展開だ、こんなにすぐ見つかるだなんて。
「じゃあ、前世はどんな人間だった?」
私が興味津々で聞くと、アーサーはまた少し考え込んで。
「実は……名前は分からないんです。」
すっかり桶は綺麗になったが、私の心はクエスチョンマークだらけになった。
「それは、どういう事?」
「僕……双子の弟に殺された記憶があるんです。でも、それ以外には何も分からなくて……幼い頃から頭の片隅にその記憶がずっとあって……。」
ここまで聞いて、本当に転生者かは判断できないかもしれない。
だけど、私はアーサーは転生者の様な気がする。
ただの勘だけど、50年以上生きてきた自分の勘は、かなり頼れるモノだと思っている。
「弟に殺された記憶なんて、本当に辛かったね。でも……こんなに早く転生者に会えて嬉しいよ。」
この集落に来たのは、正解だったみたい。
山賊野郎に大怪我負ったのは不覚だったけど、捉え方を変えれば。
「オッドアイじゃ無くなったから、探されたとしても別の意味で目立つだけで、ある意味見つかり辛くなったかも。」
そう言うと、アーサーは瞳を潤ませて。
「その節は、本当に申し訳ございません!」
いや、いいってば。痛かったりはもうないし。
というか、しっかり広場で待ってろと言わなかった私が悪い……じゃなくて元はと言えば山賊が全部悪いわっ!
「あの……良ければ、このローブを。昨日の夜中に作ったのですが……。」
私が心の中で今は亡き山賊に怒っていると、アーサーから茶色いフード付きのローブを手渡された。
「スノーさんみたいな格好で田舎に来ると、この集落の様に悪目立ちしてしまうので……。」
「ありがとう……いや、凄い綺麗な縫い目だね! 生地も丈夫な物だし……生地代渡すね。」
「いえ、受け取れません。これは、僕からの恩返しの1つです。生地も父の服を使ったので、洗ったけどもしかしたら臭いがあるかも……。」
いや、もうすっかり石鹸の良い香りしかしないよ。
それに……こんな(と言ったら失礼だけど)山奥の集落に、上等な生地の服があるなんて驚きだ。
「……じゃあ、アーサーは旅の間に繕い物とか宜しく! 食費と宿代は、私が払うから!」
「そんな……家事も僕にやらせて下さい!」
アーサーは、もの凄い勢いで頼み込んでくる。
そんな姿を見て、私は聞いてみた。
「料理とか……作れるの?」
「うちはパン屋だったし、母から料理を教えてもらってました!」
パン屋……って事は。
「パンケーキとか、作れる?」
「はい!」
「よしっ、任せたよ!」
こうして、アーサーは信用できる、仲間(料理人)になった。
私は料理が出来ない事もないけれど、役割分担した方が、スムーズな旅になるだろうから。
それにパンケーキ作れるなんて、余計連れていかないワケには行かないよ。
「では……出発は3時間後、それまでに身支度をして……夜寝てないなら、仮眠をとって。荷物は鞄にまとめたら、ペンダントに入れるから。」
「はい! 実は夜中に1度寝てしまい、貴女が起きる少し前に目が覚めましたので、仮眠はいりません!」
「分かったわ。それと、私の事は『スノー』って呼んでね。」
「分かりました、スノー!」
……今、私の鼓動はドキドキしている……が、今しかない!
言ってしまえスノー・ホワイト!!
「朝食は今から作ってくれるかな!?」
「お望みとあらば、パンケーキを作らせていただきます! 付け合わせは蜂蜜で宜しいですか!?」
フッフッフ……
「勿論だよ!」
「ニャァオーン!」
私はアーサーにご飯の催促をし、ミシュリーは私にご飯の催促をする。
この子が朝になっても騒がなかったのは、それほど私を心配していたからだろうか。
「さあ、スノー……家の中に入りましょう。」
「ええ。」
今日でお別れのこの家は、まだ1日も過ごしていないが……自分の家の様に暖かな感じがする。
私は……スノーに戻れたみたいだわ。




