一人目の仲間
『約束するよ。』
夕日が沈んでゆく帰り道だ。
『……楽しみにしてるわ。』
約束なんて、どうせ口だけ。
最後は裏切られて、文字通り斬り捨てられた。
これは私の遠い昔の記憶……。
「ん……。」
「あっ、目が覚めましたか!?」
誰かに話しかけられている。
ゆっくり目を開けてみると、目の前に少年の顔とミシュリーの顔があった。
「ここ……は?」
「僕の家です、昨日噴水脇で目を覚ましたら、貴女が横で血だらけのまま倒れていて……。」
ああ、私……あそこで気を失ったんだった。
それにしても、頭がぼーっとする。
今が何時かは分からないけれど、いったん起きてしっかり目を覚まさなきゃ……。
「まだ起き上がらないで下さいね。」
私が起きようとしたところ、丁度良いタイミングで制された。
「どうして起きちゃ駄目なの? 頭をスッキリさせたいんだけど……。」
すると少年は、仰向けで寝たままの私の顔に手を伸ばしてきた。
「な、何するの……?」
少し警戒して聞いてみると、
「タオルを変えようと思ったんです。治療魔法でも使えたらいいけれど、この集落には炎魔法・水魔法・風魔法の3つ以外を使える人はいないから……。」
少年に言われて気づいたけれど、私の額の上にはタオルが乗せられていた。
寝かされているベッド横には、水の入った木の桶が置かれているし、どうやら私は熱を上げていた様だ。
道理で頭がぼーっとするよ。
「少年、ここには誰が運んできてくれたの?」
「僕です……大人達は怪我をした貴女を怖がって、火事を止めて山賊を倒したというのに助けもしなかった……すみません。」
申し訳なさそうに頭を下げる少年は、どこかこの集落には似つかない気がする。
でも、私とそう体格が変わらないのに、運んでくれたのはとてもありがたい。
「どうもありがとう、看病までしてくれて。」
「いえ……これ位しか出来ませんから。」
もう少し自分に自信を持っても良い気がするけど……不思議な事だ。
質素な部屋の小さな窓から入る日差しは、明るさと高さ……外の空気からいって朝日だろう。
初めて片目で迎えた朝というのは、まるで別の世界にいる様な錯覚を起こさせる。
「私……一晩も眠っていたのね。」
「はい、ただ……時折うなされていて心配でした。」
それはきっと、見たくもない夢を見ていたからだろう。
「あと、着ていた甲冑は勝手ながら脱がして……磨いておきました。」
少年が部屋の隅に指をさすので、上半身をゆっくりと起こして見てみる。
……そこには、血だらけだったとは思えない程綺麗な甲冑があった。
ピカピカに磨かれていて、血の匂いもしなさそうだ。
私の右耳と右目は包帯で巻かれており、額の上には冷たいタオルが乗っていて。
少年は夜通し看病していてくれたと、指をさした際に気づいた酷い手の荒れが語っているも同然。
「本当にありがとう、私はもう……大丈夫よ。」
「あっ、まだ起きないで……。」
私はベッドから降りてみる……どうやら、一晩寝た事で魔力が戻ってきているみたい。
それなら話は簡単だ、額に右手を当てて、
「我の負った傷と熱を……持つ魔力全てで治したまえ。」
私が言うと、体が強く光った。
魔法を使う際は体が光るが、今回の光具合からしてかなり魔力を消費しそうだ。
だがそれも、全ては私の傷と……ついでに少年の手を治すため。
10秒程経つと、光は収まり熱も引いていくのが分かる。
「手が治ってる……これは魔法ですか?」
「ええ、そうよ。熱は下がったわ……タオル、ありがとうね。」
私は起き上がり、包帯を外す。
「傷……ふさがってる?」
「はい……でも……。」
少年は何か言いにくそうにしている。
両手で自分の顔を触ってみると、耳は欠けていて、右目があった場所には、海賊のような傷が出来ているっぽい。
これにはコメントも困るよね。
「人の命を救えたなら、この位大丈夫よ。」
私はなるべく少年に心配させない様に、明るく言った。
我流の治療魔法ではなくて、高度な医療魔法なら傷を再生できるかもしれないけれど、そんなところに行ったら一発で『スノー』だとバレてしまうだろう。
もう痛くは無いから、甲冑を着て次の集落に……。
「もう行ってしまうのですか?」
少年は私を見て言った。
甲冑の元には替えの包帯が置いてあったので、右目に巻きながら私は話す。
「だって、ここにいる理由はもうないもの。少年も昨日の事は忘れて、ここで穏やかに過ごして頂戴。」
素っ気なく言うと、少年は足を少し震わせながら、私を見つめてきて。
「それなら……僕も連れて行って下さい!!」
……は?
土下座までして頼み込まれても……。
「それは無理だよ、君には別の人生がある。私なんかといて、幸せになれない。」
本当の事だ、ワケ有り公爵令嬢だなんて、一緒に居て面倒な人物五本に入るんじゃないの?
「でも……ここの人達の事分かりますよね?」
……うーん。
「閉ざされた場所にいるから、片寄った考え方しかしないんです。」
まあ、そんな感じではあったね。
私が気を失っている間、誰も少年を助けなかったみたいだし。
「僕は広い世界を見たいんです。そして、貴女に恩返しをさせて下さい!」
そんなに言われても……だけど、親がいない状態でこんな集落に置いていくのも心配だし。
どうしたものか……。
「お願いします!」
……あぁぁ~。
「……私と来るとなったら、ほうきに乗れなきゃ駄目だよ?」
「乗れます! 少しの魔法なら使えます!」
「いつ死ぬか、どんな目に遭うか分からないよ?」
「一度死にかけた命なので、今更って感じです!」
うーん……。
そんなに綺麗な瞳でみられたら……。
「しょうがないかぁ。ついて来てもいいよ。」
「あ、ありがとうございます! 遅くなりましたが、僕の名前はアーサーです!」
なんだか、立派な名前だな……。
「それじゃあ、アーサー……宜しくね!」
「はい!」
と、いう事でアーサーも共に旅に出る事になった。
この時に握手を交わしたのだが、何故か少々の懐かしさを感じた。それと同時に、ほんの少し……忘れかけていた、気持ちも感じた気がする。




