少年の話
……仇?
「それって、そのままの意味で……?」
私が恐る恐る聞いてみると、少年は涙をいっぱいにためた顔になっていて。
「はい……僕の家族は……山賊に殺されたんです!」
殺された……少年の言っている事が本当だとすれば、私はコントラストの平和な面しか見ていなかった事になる。
仮にも貴族の娘だというのに、国の事を何も分かっていなかったのだ。
平和な国だと思っていた……幸せに飲み込まれて、世の中には『裏』がある事を忘れていたのかもしれない。
「少年、詳しい話を聞かせてくれる?」
「……分かりました。」
少年は時折涙を流しながら、話をしてくれた。
話によると、一週間程前に家へ山賊が押し入って来て、父母を短刀で斬りつけて金品を奪って行ったと。
少年は父母が殺されるのを影から見てしまった後、床下の収納庫に隠れていたので山賊に見つからずに済んだらしい。
だけど、上から音が聞こえなくなった頃、収納庫から出てみると荒らされた形跡と血痕だけが残っていて、両親がいなくなっていた。
集落に警察はいないが、山の麓町には駐在しているので、山賊達は通報されても捕まらない様に、自分の事を見た人間を殺してさらうケースもあるようだ。
これまで何度も警察に相談したが、山賊を探しても見つけられなかったので、今はもう放置状態になっているみたい。
「話してくれてありがとう。」
私はなるべく穏やかな声で言った。
少年は気づいてないけれど、近くにいたミシュリーは私から遠ざかっている。
本能なんだろうか……判断としては間違っていない。
「もし分かれば、山賊の特徴を教えてくれる?」
「……山賊は三人いて、二人は短刀を……一人は長刀を持っていました。」
この質問は、少年にとって最悪の思い出を蘇らせる事になるが、聞いておかなければならなかった。
「了解、教えてくれてありがとう。」
私が剣を受け取って、山に入ろうとすると……
「ちょっと待って下さい!」
少年は私を呼び止めた。
「……僕は……両親が息絶える所を見てないんです。だからもしかしたら……。」
ああ、言いたい事は分かった。
「両親の特徴は?」
「母は右手の甲にあざがあって……父は僕とそっくりな色の瞳をしていました。よそから嫁いできた母が、海みたいで綺麗……って海を見た事のない僕に話してくれてて……。」
確かにこの少年……今は光を失っているけれど、心の底から笑えば輝きそうな瞳を持ってる。
「お母さんもお父さんも、連れてこられる様に頑張るわ。」
たとえそれが、限りなく低い可能性だとしても。
「……この集落のために動いてくれて、ありがとうございます。」
集落のため……。
「少年、私は食べ物を粗末に扱う人が嫌いなの。私は、少年と自分のために山賊狩りをするのよ。」
少年の瞳が、少しだけ輝いた。
「……ありがとうございます! なんてお優しい方なんだ……。」
優しい……か。
「全然……優しくなんてないわ。」




