意味が分かりません。
「ゆ、勇者?」
まったく意味が分からない。
今までの人生で、勇者なんて選択肢出てきた事もないよ!
「そう、勇者。聖剣受け取ったのだから…ね?」
王は瞳を伏せて、私に問いかけてくる。
……恐ろしい。
この剣は持っているだけで、とても命の危険を感じる。
これからの人生に、もう不安しか感じない。
私は絶対に、生きなければならない!
生きて生きて、幸せに死ななければならない!!
回りからの拍手、期待を感じる視線、プレッシャー……私はそんなのどうだっていい!
「私は勇者なんて……意味分かんない事なんてやらない!!」
そう言った瞬間、回りの人達は息を飲む。
「スノー、1回落ち着いて……。」
「うるさい!」
宝石で飾られた剣を握り締め、私は覚悟を決めた。
私は……剣を持ったまま、玉座の間を走って後にした。
「待てスノー!」
王の声が聞こえた。
「「スノー!」」
両親の声も聞こえた。
だけど、私は赤いカーペットの上を走り続ける。
滑らないから、いつもよりも速く走れる気がした。
「待って下さいっ!」
衛兵に追いかけられ、息が切れてきても止まらずに走った。
広い城から早く出るには、窓ガラスでも割れれば良いのだが、この城の窓は割れない様に魔法でバリアをしている。
バリアは作り出せる人が少なくて、その分……作れるなら生涯金には困らないとも言われている。
……という事で、城門から出るしかない。
裏口もあるけれど、今いる所からは少し遠い。
走り続けて、城門にあと少しの場所にある廊下の角を曲がると、
「止まってください!」
と、衛兵数人が手を広げていた。
もう、このまま突っ切るしかないので、
「風よ、我の前に立つ者を除けろ!」
ゴウッ
私が言った瞬間、突風が吹いて、衛兵を吹き飛ばす。
風を作り出す魔法は、回りの空気を操るモノで、綺麗な空気である程操りやすい。
「ギャッ!」
と声が聞こえたが、そんな事はどうでも良かった。
その後、躊躇う事もなく何人もの衛兵を吹き飛ばした。
衛兵だって弱くはないだろうし、大きな怪我はしないだろう。
場内から出たとたんに、私はほうきを取り出した。
小さい頃から愛用しているほうきは、私にとってのパートナー。
最近はいつも、ロケットペンダントに収納している。
ロケットペンダントには物を小さくする『縮小魔法』をかけた金属が使われており、パカッと蓋を開けて収納したい物の一部を付けるだけで、入れておく事が出来る。
……ペンダントは大学の入学祝として、両親から貰った物だ。
ほうきに飛び乗ると、新たな衛兵が近づいてきていたので、すぐに飛び立った。
そのまま、ただだ飛び続けた。
行く宛もなく、月が雲で隠れた夜空を飛んだ。
それはまるで、今の私の気持ちを表しているみたい。
暗くとても不安で、何処に行けば良いのか……光も差さない運命だと言われている気がする。
ザパーン……
飛んでいるうちに、夜の激しい波の音が聞こえてくる。
私は、十字架の元へ来ていたのだ。
来るつもりはなかったけれど、無意識に向かっていたのか、ここに来いと呼ばれたのか。
……原っぱの上に、静かに着地する。
甲冑を着たままなので、ガシャンッ……と音はしたが。
十字架を見つめていると、心が段々落ち着いていく。
1秒が長く感じ……時が止まったみたい。
見つめ続けて何分経ったのだろうか……急に雲が晴れて月が見え始める。
そのうち時間の流れを感じ始め、月明かりが後ろから私を照らした。
私の影は、十字架にピッタリ重なる。
「こんばんは、シエナ……いいえ、柚。」
返事なんてあるわけない。
柚はもう、死んでいるのだから。
「あんたの父さん、言ってる事意味分からないよ。」
月明かりはさらに強くなる。
「私の父さん母さんも、知っていて城に連れていったんだろうね。」
私の影が濃くなっていく。
「しっかり話を聞いてから、判断すればいいんだろうけどさ…感じるんだよ。」
私は剣を握って言った。
「きっと、これを使う人生で『約束』は守れない…さようなら。」
私はほうきに乗って、十字架の前から飛び立った。
握り締めてきた剣は、夜の海へと投げ捨てた。
月は完全に出ていて、星もキラキラと光っている。
月明かりに負けていようと、星は輝いていた。




