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コントラスト城 part1

白い城壁、頑丈な城門、長い廊下に赤いカーペット。

屈強な兵士が等間隔に配置されている城内、その前を忙しそうに通る使用人達。

城下町と水平線を見渡す事が出来る場所に聳え立つこの建物は、コントラスト王国で最も有名かつ、最も捻りの無い名称だと有名な《コントラスト城》だ。

そんなコントラスト城に、私は無理やり足を運ばされている。


何故ここに居るのかと言うと、()()()()()()()の直後……ライのお迎えである四頭のペガサスがひく豪華なペガサス車が、緊急時以外馬車・ペガサス車立ち入り禁止区域である校舎前の石畳に現れた事が始まり。




「ライっ、あんたペガサス車がここまで入ってきたら駄目だって、分かってるのよね!?」


投げ飛ばし事件の後、激しく言い争いをしていた勢いが残っている事もあり、野次馬だけではなく新聞社の取材人まで集まってきたにも関わらず、子供を怒る母親のごとく私は怒り続けていた。

それに対して、ライも負けじと言い返してくる。


「俺は王のたった一人である実子、第一王子だ。昇降口までペガサス車で迎えに来るはずだったのに、俺が狂暴女に襲われ終わっても着いていなかった。御者は解雇だな。」


さっきまで尻が痛い、腰が痛いと嘆いていた奴がよく言うよ。

口と学力のレベルだけは上がってる所だけ見ると、未来の国王としてやっていけるのかが心配だ。

顔と中身が全く違う、これをギャップ萌えと思えるなら良いのだが、残念な事にライはギャップ萌えではなくギャップ萎えとでも言った方が正しいだろう。


「スノーホワイト、乗れ。」


「どこの俺様だよ。」


「コントラストの王子様だ、いいから乗れ。」


巧い返しに乗せられて、イザベラに一言伝えてから私はペガサス車に乗った。

私が普段乗るペガサス車内もかなり豪華だと思っていたが、久しぶりに乗った王族専用車は褒めるを通り越して気が引ける豪華さ。


シンデレラも乗車を躊躇する事間違いなし……なペガサス車は、一流御者の巧みな技によりグンッと高度を上げて、それでいて安定感のある空中飛行を保ったままコントラスト城までの安全運転を果たした。

それにより、身勝手なライの解雇宣言は、ライ自身が訂正。

御者のおじいさんはライと付き合いが長いのか、まるで孫を見守るかの様に微笑んでいた。

もっと厳しく行こうよ。

こいつ、車内で私に「父さんに絶対謝らせるからな!」って、屑宣言しているのだから。




そんなこんなで城に着き、現在は王族や王と親しい貴族が使う広間に居る。

細かな刺繍がほどこされたテーブルクロスがひかれる円形テーブルに、お互いの顔を見れる形で座りつつライの言い分を聞いているのだ。


「こーであーでそーで、それで今、スノーホワイトを連れてきた!」


途中眠くもなったが、これから色々起こるのだから、必殺技である目を開けたまま寝る技を出すまいと、自分の腿をつねりながらライの話が終わるまで耐えきった。


私はこの先で待っている言葉を知っている。


「ライ……。」


肩を震わせて、地の底から現れる怪物の様に低い声で、王はライの名前を呼んだ。


チクタクチクタク、柱時計が王の言葉の間を最大限まで引き立たせたその時。


「スノーに謝れぇぇぇ!!」


「フッ。」


あ、いけないいけない。

王の言葉を聞いたライの顔が、面白すぎて冷静に噴き出してしまった。

我ながら性格の悪さが目に見える

いつからこんなになったのか……ま、取り敢えず誤魔化そう。


「はっくしょん……花粉症なものでして、続けてください。」


………。


「謝れぇぇぇ!!」


「なんでだよ父さん!」


「何でじゃない! お前はスノーに自慢するといい、内緒で大学受験した。スノーも同じ大学を受けると伝えてからは、余計に努力したな? ここまではまだ良い。しかし、スノーが首席合格してからというものの、お前は毎日『あいつには実力では負けない』『カンニングしたに決まってる』『あの日は高熱があった』などと、事実を認めようとしない。そんなお前を叱っただけで、合格したことは私は誇りに思っていたのだ! それなのに、スノーを突き飛ばすなんて……グリーンのドレスが台無しじゃないか! あと、お前は思いっきり突き飛ばしたのに、スノーはお前に怪我なんてさせていなかった。手加減して投げたのに、お前は『怪我させられた』『骨が折れたかも』なんて言いおって!!」


王様、分かりやすい説明ありがとうございます。

あなたの台詞だけに、ライの全てが詰まっていますよ。






「スノー、息子が本当に悪かった。」


ライが涙目のままお手洗いに行くと席を外したら、改めて王は謝ってきた。


「母親がいれば、少しは違うのかもしれないが……子育てというのは実に難しいものだ。」


「お妃様は早くに亡くなられた……と聞いていますが、ライだってもう少し大きくなれば、きっと次期国王に相応しくなられると思いますよ。あれは性格の問題です、ちょっと芯がひん曲がっただけなので矯正でどうにかなるでしょう。」


王の前で第一王子についての正直な意見を述べれる……貴重な立場なのだろうが、もはや慣れ過ぎて何とも思わない。


「ハハハ……スノーにはライも敵わんな。将来、あの子を尻に敷いてくれる妻を娶れると良いのだが……。」


……はいはい、そういう話ですか。


「そうですねぇ、世界は広いですし、アレを尻に敷くのに抵抗のない方は何処かにいらっしゃるのでしょう。」


「そ、そうだな。」


前々から気づいてはいたが、この国では王族と国内の貴族が結婚すると、とにかく国中が大喜びする。

因みに、コントラストでは恋愛結婚が主流だ。

通信機器も存在していない世界で、恋愛結婚が主流というのは良いと思う。

だがしかし、王族・貴族となれば話が違ってくるのだ。

目線が近い者同士が惹かれ、結婚するのは好きにしてくれて構わない……が。

幼い頃から仲が良いと、親同士も仲が良い事が多いので、自然とそういう雰囲気になってしまう。又は、そういう雰囲気にされる。

ライの馬鹿が気付いていない……それだけの事実に私は救われている事を知るのは、この世界でスノーホワイトただ一人。


「おお、そうだスノー。お前が来ない間に、色々な美術品が増えたのだが……久しぶりに観賞するか?」


これは、王なりの気遣い。

私が嫌な気分にならない為に、ライが何かしでかした後にはいつもの倍程王らしさが消える。

個人的に、変な雰囲気を醸し出される方が迷惑なのだけれど。いい加減慣れないと駄目か。


「勿論です、我が家とは比べ物にならない程、素晴らしい品を観賞出来ますので。」


余所行きの喋り方だが、美術品観賞が好きなのは本当だ。

作った芸術家の想いが込められている作品を観ると、時間が止まったかの様に時を忘れられるから。

有名だろうが無名だろうが、感心した作品だけを集めている王の事を私は尊敬している。

心に響く物は手に入れる……そんな、平等であり平凡でもある思想を持つ王のお陰で、私が見てきたコントラストは平和なのかもしれない。


「いやいや、エミールはコントラスト中を回って美術品を鑑賞する程の奴だ。ここには無い、珍しい作品も沢山あるだろう。」


「ハハハ……ええ、そう言われてしまうと否定は出来ません。」


「素直で宜しい。」


王は笑いながら、わざとらしく威張る。

そんな姿が面白くて、二人分の笑い声がとても長い回廊に響いた。

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