大学生の朝 part2
「おはようございます、お父様、お母様。」
ダイニングルームの扉をイザベラが開け、私はミシュリーとともに部屋へと入る。
最初に目についたのは、刺繍がほどこされたテーブルクロスの上に飾られている、色とりどりの花が生けられた花瓶二つ。
花の香りは心地良く、食事の邪魔にはならない。
むしろプレートに飾りたくなる程に合う。
この花を毎日選ぶのは執事長のギューラウス、花にまで詳しい完璧な執事だ。
「おはよう、スノー。」
お父様が口角を上げた。
「おはようございます、スノー。」
お母様はにっこりと目を細めた。
「おはようございます、スノー様。本日の朝食は、もう少しで出来上がります。」
「おはよう、朝食のメニューを教えてくださる?」
この小さな体には釣り合わない肘掛けの椅子を引くギューラウスに、いつから出来る様になったのか分からない貴族らしい上から目線の質問をする。
この質問は、ほぼ命令と解釈しても良い。
「畏まりました。取れたてのレタスとトマトを使ったサラダ、コントラストで一番甘い品種の苺を煮詰めて作ったベリージャムをかけて食べるパンケーキ、私が現地へ足を運び厳選した珈琲豆とストレスをかけない様に育てた乳牛のミルクを合わせたカフェオレでございます。」
こんな食事が出される事に、いつしか驚かなくなったな。
「教えてくれてありがとう。」
ギューラウスは、軽く一礼して壁際に下がった。
先程まで近くにいたイザベラはというと、うちの敷地内にある家に一度帰り、登校の準備をしてからまたうちに戻ってくる。
去年飛び級で王立コントラスト大学執事学科に入学したイザベラは、現在二年生へと進級し日々一人前の使用人になるために頑張っている。
執事学科には執事コースとメイドコースがあるのだが、私が進学するのは魔法学科……入学できる人数が25人までなので、コース分けはない。
「ああ、そういえばスノーに頼みたい事があった。」
美代が読んだ漫画なら、背景に電球マークが現れそうな顔で、右手の拳で左掌をぽんっと叩く。
このアクションは、世界を越えてまで存在するのか。
「なんでしょうか?」
「城に行って欲しいんだ、ほら……。」
父の顔が曇る。
それだけで、何を言いたいのかが分かった。
「そうですね、私もしっかり報告せねばなりませんので。」
ここ最近は受験勉強で忙しく、合格してからも「合格する事が出来ました。」みたいな事を親戚の家に言いにくという、なんとも面倒だが父母のメンツを守る為にやらなければならない事が多くて会いに行けなかった。
「お土産に……フルーツでも持っていきますね。勿論、大好きだった物を。」




