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高校生の幼馴染

この……悪ガキの様な声は……。


「スノーホワイトォォオッ!!」


少し声の低い女の子、そう説明されたら姿を見るまで信じてしまうだろう声だ。

これに対して、私がする行動はたった一つ。

すぅーっと息を吸って。


「うるさぁぁぁいっ!!」


叫び返すんだ。

そして叫び返した相手は、クルクルとカールしている煌びやかな金髪に、深い青の瞳を持つ美少年こと……この国の第一王子『ライ』。

私からするといわゆる幼馴染のポジションにいるライは、ペガサス四頭がひくコーチから降りてずんずんとこちらへ向かってくる。

高級な革で作られているに違いない!……そう宣言する様に光るローファーを履いて、誰に会釈する訳でもなく私から目を離さずに。

見た目だけは良いのだが、こいつはどうも中身がね……。


「スノーホワイト、決闘だ。」


意味が分からない……ので、こう答えるのみ。


「やだよ、馬鹿。」


目の前に来た8歳の少年に、有無を言わさず馬鹿と言うのは嫌だけど……ライに言うのは特に抵抗がない。

顔を真っ赤にしているが、それを見てもなんとも思わない。


「馬鹿とはなんだっ! 俺は王子だぞ……父さんに言いつけてやる!!」


そうですか、すぐに親に頼ろうとする典型的なわがまま坊やですか。

……今度、王に甘やかすなって伝えないと。


「さ、イザベラ行きましょう。馬鹿の相手をしていたら、登校する他の生徒に悪いわ。」


「で、でも……。」


私はスルーできても、イザベラは良い子だから言葉を濁した。

公爵令嬢と第一王子の喧嘩と聞いて集まってきただろう、沢山の野次馬が周りに群がっている。

生徒だけではなく、教師らしき人まで。

喧嘩をしていると聞いたなら、教師として止めてほしいよ。

たとえ、一方的に突っかかってきただけだとしても。


「待てよっ、お前のせいで飛び級入学が目立たなくなったんだぞ!?」


あ、そういえばライも飛び級入学したんだった。

私とは違って、この馬鹿は本当に頭が良い(まあ馬鹿なんだけど)。


「王に聞いたよ、20位で入学おめでとう。」


これは本当に凄い事、毎年一学年の生徒数が200人いる中での20位だもの。

それが8歳の少年で、王子でもあるだなんて史上初かもしれない。


「そんな嫌味言うなよ!」


首席の私に20位が怒鳴る。

しょうがない、だって転生者だもの……なんて口が裂けても言えない。

信じてもらえる可能性が低すぎるし、厄介事に巻き込まれそうだから。

私が転生者と分かっているのは、これまでの人生でも一人だけ。


「ライ、陛下に言う言わないはどーでもいいとして、入学式から遅刻なんて……末代までの恥じゃなくて?」


「……はっ!」


気づくのが遅いよ。

子供だからしょうがないけど、頭が良いのか悪いのかはっきりしてほしい。


「いっ急ぐぞ!!」


特にとりまきがいる訳ではないので、私に言ってくれたのだろう。

ただ、ゴツゴツとした石畳をローファーで走るのは、見ているこちらが怖くなる。


「走ったら転ぶんじゃ……。」


注意しかけたその時。


ドシャァッ


派手な音と少しの砂ぼこりを舞い上がらせて、思いっきり転んだ王子が目の前にいる……この場合、気軽にライを触れるのは身分的にも気持ち的にも私だけだろう。

十メートル程先で潰れた蛙の様になっているライに、そっと手を貸して座る体勢に起こした。


「ライ、立てる?」


俯いた顔を覗き込むと、顎から血が出ている事に気づいた。

擦りむいただけに見えるが、消毒や手当はしなければ駄目な感じ。


「……っ。」


転んだくらいで目に涙ためて……首を横に振るしか出来ないとは。


「立てないの?」


「……っ。」


これはアレだな、喋りだすと涙がこぼれるから喋れない状態だ。

こうなると硬直状態が続くし、そしたら入学式に間に合わなくなって家族や親族に恥をかかせてしまう。

一緒にいたイザベラが、責任を取らされる……事はないだろうが、イザベラ本人が悔やむだろう。


「しょうがない、えいっ!」


両膝と顎から血を流す小さな体を軽々とお姫様抱っこ……とはいかず、両手から人が数センチ浮く位の風を出してお姫様抱っこ風で、イザベラが案内してくれた保健室へと運んだ。

新入生の公爵令嬢(8歳)が新入生の第一王子(8歳)を運ぶ……集まった野次馬は、かなり貴重な光景を目にしたのだろう。


「私の背中に鼻水付けないでね。」


「……っ。」


「……あれ? そういえば片割れはどうしたの?」


「……風邪。」


そっか……帰ったら速達便でフルーツでも送ろう。

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