高校生の初ご飯
「カァー、カァーッ!」
カラスが大きな鳴き声をあげる朝、私は目を覚ました。
ベッドからゆるりと起き上がり、窓を開けてみると春の香りがする。
「今日から新しい幕開け……か。」
私は学びに学び続けて、ついに『王立コントラスト高等学校』に入学した。
今日は待ちに待った入学式である。
しかし、実はスノーホワイトはまだ8歳……小学校低学年の年齢だ。
何故高校生になれたのかというと、コントラストは幼稚園~大学まで存在しており、小学校からは飛び級が可能となっているからだ。
数学と理科は美咲と美代の世界よりも遅れているため、私はとくに勉強しなくても大丈夫な教科。
国語は……転生先でも文字は美咲の世界と同じに見えるため、こちらも特に勉強は必要ない。ことわざを覚えるくらいだ。
社会は覚えなければいけず、自作単語カードを数セット使って暗記した。ファンタジーの様な歴史が楽しくて、特に苦にはならなかったけど。
魔法は毎日頑張ってきたから、高校卒業程度の魔法……畑に雨状の水を降らせる位なら出来るまでになった。
小学校入学時から学期が変わる度に、バンバン飛び級したら高校生まできていた。
やはりどの世界でも、優秀ならば待遇も良くなるだろうし、良い生活も出来る……すなわち、幸せに暮らせるという事。
「スノー様、朝食の準備が出来ました。」
イザベラの声が扉の外側から聞こえた。
ここ二年でさらに大人らしくなった10歳の少女は、今年から王立コントラスト高等学校二年生。
つまり、私の先輩って事。
「今行くわ。」
いつもはもっと早く起きるのに、スノーは何かある日に限ってグッスリ寝入ってしまうらしい。
今日もカラスが鳴き始めた7時まで、眠ってしまっていた。
急いでクローゼットの中からドレス(膝丈)を取り出して、素早く着替えて靴も履く。
長くてストレートな髪をブラシでとかし、ぱっつん前髪だけを残してその他の髪をポニーテールにする。
昨日念入りに髪を洗ったからか、いつもよりも銀髪がサラサラと輝いて見えた。
固形石鹸しか存在しないこの世界は、髪を洗うのが大変なのだ。
「ニャーン。」
「はいはい、今行くからね。」
朝食の催促をするミシュリーと、まあまあお腹がすいている私はダイニングルームへと向かった。
相変わらず廊下には肖像画とか、なんかの置物。
見るからに高そうな壺は、年々増えてきている。
それでも置場所に困らないのは、広すぎる屋敷だから。
いまだに庭園で迷いそうになるくらい。
「スノーが来たら、いっせーので!!で、入学おめでとう……だぞ!?」
「分かっていますとも!」
ダイニングルームの扉の前に着くと、中の会話は丸聞こえ状態。
ギューラウスは気づいているはずなのに、止めないのは主に意見を出せないからだろう。
ここは、気づかないフリをするのが親のため。
「おはようございます。」
「あっ。」
父の間の抜けた声がする所、入るタイミングを間違えたらしい。
ここで廊下に一度戻るという選択肢もあるが、それを選べば父母は己の惨めさを感じる事だろう。
「……今日の朝食はなんでしょうか?」
必殺、空気を読まないどころか感じていないフリ作戦。
その後出てきたのは、卵がたっぷり染み込んだフレンチトーストだった。
この世界にフレンチトーストがあると知った日は驚いたが、コントラストではシロップトーストと名称がついていた。
その名の通り、食べるときにメープルシロップをかけるのが主流。
バニラアイスを乗せても美味しいのだろう。
だが……「入学おめでとう!!」と声をかけるつもりであった父母の顔を見ると、せっかくのシロップトーストと大好きなカフェオレを楽しみきれない。
モグモグモグ……
微量の咀嚼音しか聞こえない部屋での食事というのは、なんと居心地の悪いものなのだろうか。




