#099:結実かっ(あるいは、白のワールス力、発動だってさ)
思考が、おぼろげで、はかなげながらも、ぷかり泡のように、ゆっくりと意識の表層にのぼってきては、ぱちりとその存在を主張し始めてくる。封じ込んでいた、記憶が。
……「今回」の6年間は、私史上、最悪の年月だった。
母親の死がまず第一にあった。自分が看取るなんて思ってなかっただけに。
プラス仕事、男、それだけじゃあ勿論無いんだけれど、それだけに逃避して依存していただけに、ショックは自分で思ってた以上に重かった。
そして、どん底の気分で、全てを諦めていった。手放していった。振り払っていった。
「選別」が来る前に……自分で自分の決着をつけようとしていた。
あの夜、終わってたかも知れない私。飛べば終わると思って……思い込まそうとしていた私。
……最後の最後で、「余計な邪魔」が入ったわけなんだけど。
私はいっとう最初の、丸男との邂逅の時のことを思い出していた。
本当はあの雑居ビルの屋上に部外者が入り込んでいるだろうことはひと目、あそこに出た時に分かっていた。ビールの缶とかワンカップの瓶が転がっていたりしたし、どっか階下のオフィス辺りからかっぱらって来ただろう、キャスター付きの椅子なんかも、いかにもそこで飲んでました風に転がされていたから。
私の中の誰かは、「邪魔」してくれる誰かを待っていたのだと思う。過去の「選別」を耐え抜いて生き抜いてきた、誰かが。
ふ、と場外の左手方面、もと私の領域だったところの外側に横付けされたコンテナを見やる。
窮屈さの8割ほどの要因を担う、その無駄にでかいフォルム。振り向いた私の、自然で柔らかな表情に慄いたのか、またガタガタ体を震わせ始めるけど。
丸男、あんたは恩人なのかも知れない。アオナギ、カワミナミ君、もちろんあんたらも。
だって、死のうと思ってた人間が今のいま、いったい何をやってるっていうのよ。
全身タイツで殴り合って、大金賭けて、電流ケツに流し合って、ははっ、意味わかんない。バカか。バカだろ。でも、
……バカならバカなりに、バカみたいになあ、人生を燃やし尽くすだけだ。
コンテナの中の心強い付き人たちに向けて、私はとびきりの笑顔で対峙する。慄きのけぞる細いのと丸いの。大して表情も変えずに頷いてくれる麗人。肚は決まった。
……このバカでダメな祭典を勝ち抜いて、そして「選別」を生き抜いて、次の6年で2億がとこ、使い倒す。
南の島で、褐色の肌のイケメンたちをはべらし倒す。海辺の豪勢なプールサイドで、好きな時に起きて、好きな時に食べて、酒カッ食らって、好きな時に寝る。
「正気」なんかとはまったくの真逆の、乱痴気に彩られた6年を送ってやるわ。
目の前のセンコと、にやりとした顔と顔が向かい合う。こいつはこいつで、自分から困難な道に歩み出そうとしているのだろう。私と同じ病気とか言ってたお兄さんのことも気にはなるけど。
いやもう関係ねぇ。存分にぶつかってやるわ。それだけよ。