#096:横領かっ(あるいは、光臨/愚昧/壮途)
ただならぬ私の挙動に、他の対局者たちも気づき始めたようだ。
<ミズ……クボ選手っ……これは瞬時っ!! イブクロ・シギ両選手より、ダウンを奪いました!!>
遅ればせの実況もついてくる。さて、のんびりもしてられない。視線を飛ばすと、対局場の中央付近で、相変らずのハイスピードバトルを繰り広げている、島VS塗魚のさらに向こうには、二人分の人影が見て取れた。
……周りから、攻めてくか。
周囲に設置された電光掲示板をちらと見て、そいつらをプロテクターの色から、「青」クロト、「水色」アコモデと確認する。どちらも「造反元老」組か。
あれ? そっちサイドには、もう一人いなかったっけ、と思ったら、倒れ伏している一人を発見。「白」はユジシ。「正統元老」が、「造反」二人に囲まれてやられたと、そういうわけか。
「!!」
なんて考えてたら、がこんと結構な音がして、そのユジシの身体が私の視界から消えていった。いや、彼女の倒れていた「床面」そのものが落下したのだと悟る。そう言えばさっきそんな説明あったっけ。
11に区切られた面が、時間経過と共に「脱落」する。今のはその初っ端ってことか。
ダウン取られててもそうじゃなくても、突然襲ってくる、この「トラップ」には気をつけないといけない。リングアウトは即負けなのだから。
私の現在いるところは、シギの初期位置である「六」。「十」から、5分ごとにカウントダウン式に脱落していくそうだから、まだ余裕はあると思えるけど。
<ユジシ選手、戦闘不能!! よってダウンを取ったクロト選手に『1億』加算っ!!>
実況の声が響き渡る。あれ、相手を「場外」にさせないと、その「戦闘不能ボーナス1億円」は手に入らないってこと? そんな説明無かったぁぁぁぁぁっ!!
「水窪っ、後ろだっ!!」
そこへ背後から飛んでくる、セコンド:カワミナミ君の鋭くも凛々しい注意喚起。調子こいてる場合じゃなかった。後ろにも「敵」はいる。
「……」
振り返った私の視界に入ったのは、腰を深く割った見事な摺り足ながら、おそらく「トリプル」の恩恵を受けているんだろう、早送り映像でも見ているかのような、そんな両掌を交互に突き出しつつ、不気味な挙動でこちらに突進してくるセンコの厳めしい巨顔があったわけで。
あっぶねー、あんな三倍速つっぱりやら、ぶちかましやらを喰らおうものなら、即、土俵際だ。いやあっけなく突き押し出されてリングアウトだわ。
慌ててセンコの方へ向き直り、再び半身の構えを取る私だけれど、やっぱこいつが一番の難敵なんじゃあないの? いかんともしがたいウェイト差。それって「加速」しただけで覆せるものなのだろうか。
……ならばDEPか。ぐるぐる回る思考も三倍速くらいになってんじゃないのとの錯覚を押し留めて、私は「先行DEP、接近打撃」というあまり新規性は見られない作戦を組み立てるのだけれど。
「!!」
センコの狙いは、まずは私じゃあ無かった。距離を詰めて来たと思ったセンコは、その途中の場にうつぶせになっていたイブクロの足首付近をその巨大な手で掴むと、片腕の力だけで、無造作に右方向へと投げ払ったのであった。放物線を描き、対局場の外へと宙を舞っていく、その細身の姿。
<イブクロ選手、戦闘不能、センコ選手に『1億』!!>
やられた、狙いは漁夫の利ハイエナかよっ。「3000万」ちょいまで所持金を減らしていたセンコだったが、これにより一気に桁が増えたことが、電光掲示板にも表示される。うえ。
<
一:シマ :赤:12100
三:チギラクサ:黄:10500
八:センコ :橙:13100
四:トザカナ :黒: 7100
十;クロト :青:10100
五:アコモデ :水: 6400
六:シギ :紫: 6200
七:ミズクボ :緑: 4300
>
状況が激変しとるぅぅぅぅぅぅっ!! 対局者は10名から2名リングアウトとなり、残るは8名に絞られている。それはいいんだけれど、「トリプル」で飛ばしに飛ばしたツケで、いまの私は所持金的に最下位だ。
こいつはやばい。いや、でも「こいつ」を放り出しさえすれば……
私は今しがた裏拳で仕留めて転がしたソバージュ元年、シギの元へと向かい始める。こ、こいつだけは渡さないんだかんねっ!!