#081:開陳かっ(あるいは、ベスビオス級=自分至上=大発会)
「水窪、第一戦、なかなかの手筋だった。格闘なしでもここまでやれるとは。正直思っていなかった。アオナギではないが『持っている』と言えるのかもな」
そのアオナギの物言わぬ体をベッド下に押し込んだところで、無駄な力の入ってないいつもの華麗な身のこなしでドアを開けて入ってきたカワミナミ君に、そうねぎらわれるけど。
……ちょっともう、そこには触れんといて欲しいわけで。
「……」
私は曖昧な笑みと遠くを見る目でやり過ごすと、差し出された微炭酸とスウィーティらしき果汁感たっぷりの瓶入り飲料をありがたくいただく。いやぁ、人をたばかると喉が渇くのね。
医務室の白い床にばばあ座りになってガタガタと震えるだけの丸男を目で制すと、私はベッドの上に腰かけ直す。
「……つーか、今後の展開みたいのが、どうなるのか気になる」
率直な私の意見だ。カワミナミ君は軽く頷くと、端末の画面を一瞥してから私の方へその流麗な顔を向けて来る。
「……元老内の造反が……ここまで浮き彫りになるとは意外だった。表面上はことなかれで、順当に島辺りが優勝、みたいな筋書きで進むのだろうとは思っていたが」
そうなの。の割には、私にいろいろ仕込んでくれてたけど。あれは何。
「……その旧態をぶち壊す意味でも水窪、お前に託していたところがあった。いや、今この瞬間も、それは変わらないが」
真剣な表情をされると、ちょっと照れくさい。照れくさ紛れに、飲み終わった空き瓶に高速の縦回転を与えつつ、床にぺたり座りこんでいる丸い男の丸い顔面目掛けて投げ放ってみる。おこたんぺ、みたいな呻き声を上げて、丸男も床に伏した。
「『今後の展開』については……ジョリーに聞いた方が早いだろう」
傍らにあったパイプ椅子に、重力を感じさせない挙動で座ると、カワミナミ君はその横のサイドテーブルにスマホを立てる。うーん、でもジョリさん情報の中で、今の今まで役に立ったものってあったっけ。例の「日本酒ボンボン」みたいな差し入れに関してはナイスとしか言えないけれども。そんなことを考えている間に、通話が繋がる。
「……こんに痴話喧嘩の後の〇〇〇〇って何で激しくなるのっていう、至上命題」
やけに絞ったテンションでの、そんな挨拶だったけど内容はしょうもねえな。いつもの彫りの深い、トーテムポールの下から二番目くらいの顔に肉付けしたような面相が画面を埋めている。別にリアルタイムで拝顔するほどのことは無いとは思うけど、むほり、と一発、顔の筋肉を何かの感情を表すかのように歪めてから、ジョリさんは口を開く。
「ワカクサぁん、見てたわよぉん、もうね、感動もん。特に最後」
あっるぇー、何だろう、この人にも私の諸々が見透かされているような気がするー。
余計な事を口走った瞬間、体全体が滑ったぁ、とか言ってスマホを即時沈黙させることの出来る射程距離内へと、ベッドの上で尻をにじり動かしながら、私はそんな微調整を余儀なくされる。