#080:隠蔽かっ(あるいは、サーカディアン=白瀬三乗)
何で……っ、何であんな、DEPぶん回したんだよ……っ!!
きひゃああ、という、羞恥心がMAXボルテージに至った時のみ発せられる叫びを上げそうになりながらも、私はどうにか精神を正常域まで持ってこようとするけど。
やっびゃぁ事にはいささかも曇りは無く、私はただただ、あわわわとシーツに押し付けた唇をわななかせることしか出来ない。
「12歳の私」って妙にひねてたとこあって、「ルールは守るけど、その盲点から予想外の行動をとる」っていう、何とも度し難いドヤをかます、いけ好かないヤツだったわけで。封印しておきたかった黒歴史だったのに……それ忘れてた。
いや、その悪魔的な奔放さに頭の片隅のどこかでは期待していた部分あるかも。とにかく全能感に満ち溢れていた時だったし、周りを、世間を舐めくさって、世界の中心に自分がいる、みたいなナチュラルにキマってるかのような凄まじいオーラを発していた時期だったから。
ほんとは、すっからかんだったってこと、遅ればせながら、ついさっき分かりましたのよ。いや遅すぎんでしょーが、私。
世界に中心なんて無い。中心に見えるものは全て錯覚だ。
さんざ人生の煮え湯に、鼻の下に水面が来るまで浸かりに浸からされ、飲み下さなければ窒息して死ぬ、くらいまで追い込まれた今なら分かる。でも、それ認めちゃうとキツ過ぎるから、人はまた「世界の中心」を探しちゃうのよ、これが。そしてそれこそが人生のモチベーションの正体なのかも知れない。
……いや、そんな悟ったフリをしてもダメだ。
「自分の中心に自分を置くこと」。それを目標に、私は進まなくちゃあならないんだって。煮え湯の海を立ち泳ぎしながら、持ってなきゃいけないもんは、全部頭の上に乗せて持ち続けなくちゃいけないんだってば。
だからアイツはもう封印したる。アイツもうほんとあかんわ。何が「エウロパⅩⅡ」だよ、最悪の悪手かましやがってぇぇぇぇぇッ……!!
その後の、場を収束させるためだけに行われた尻ぬぐい演説は、自分(今の自分ね)でもかなりの苦し紛れ感に彩られていたけれど、何とか乗り切ったところだけは褒めてつかわしたい。
あれ自体は、自分の中の率直な気持ちだったし、もちろん嘘でもない。
でもねえ。その前のDEPが、たばかり満載であるってのが、やっびゃぁぁっつうの。
「ね……姐さん、気分はどうでげす?」
そんな頭がフットーしちゃいそうな私の背後から、遠慮がちな声がいきなりかかり、思わず背筋がびびくとなる。いけない、平常心よ。
「……大丈夫。今はひとりにさせて」
シーツに顔を埋め込んだまま、何とかそんなテンプレ台詞を返すことは出来た。しかし、
「いや~、流石持ってる持ってる。正に自在の手筋ってぇ感じだったぜぇ~、いやいやいや、少年の洗脳がいい感じにハマった結果っつぅか、いやぁ、すげえ引き出しを持ってなすったっつうか」
アオナギの奴がそう上機嫌で入って来やがった。全てを、把握したかのような物言いで。いかんな。この件は墓場まで持参せなあかん事項よ?
「極め付きはあのDEPよなぁ……日本語の曖昧さ、多義性をいかんなく発揮してまぁ~思考の埒外の手筋。よもやあんなのをぶちかますことが出来るとは、こりゃ元老どもも片っ端からなで斬れるんじゃね? みたいな確信を俺は抱いた。なんせ嘘八百のでまかせを巧みにコーティングすりゃあ、片っ端から強力DEPに様変わりするっつう、まさにダメの錬金術的な」
そこまでだった。近づいて来た気配を背中で察知した私は、ベッドから振り向きざまに、その余計な言葉を発する汚い喉仏目掛け躍りかかると、滑らかな動きで前腕をそこに圧迫させていく。
しこつこ、みたいな呻き声を発すると、次の瞬間、その長髪は力無く床に崩れ落ちていった。