#078:炸裂かっ(あるいは、ヴァニティ=ゲーム=メイカー)
「私もぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 義理の父に……ずっと……ずっと弄ば……れて……きて」
里無の声は、気持ちの昂りを示すかのように、張り上がったかと思ったら、徐々に尻すぼみになっていった。
その表情も、無きに等しかった今までとは正反対に、目まぐるしく変化をしていってる。
慟哭。私はこの里無を、救うことが出来るのだろうか……
<後手:87,930pt>
決着はついた。ついたけど、この対局に限っては、それはもう、付随的なことみたいに感じられているようだ。
「……」
里無は、涙で濡れた顔のまま、私の方を見続けている。運営の方の進行も、一時止められているようだ。
流れ的にそうなってしまったようなので、私から応えなきゃいけないよね……「12歳の私」は既に引っ込んでしまったから、「今の私」が相対しなければダメなようだけど。
でも「今の私」だからこそ……かけられる言葉もあるのかと思う。
「……思い出すと、うあぁぁってなっちゃう忌まわしい記憶は、時間が経っても忘れるなんてことはない。刺すような痛みを伴うトゲみたいなものに、自己防御的な『膜』みたいなものが覆いかぶさって、その存在は普段は……ぼやけ隠されてはいくけれど」
広い球場に、私の言葉だけが反響していく。嗚咽を抑えながら、里無は私の言葉に耳を傾けてくれているようだ。周りの対局者たちも、運営も完全に静観の構え。
……ゆっくり考えて、ゆっくり紡いでいこう。
「……やがてそれは自分の一部になっていく。自分の属性となってしまった、そんなままならない疼痛みたいなものとの、長い付き合いが始まる。そしてふとした瞬間に、その鋭利なトゲは内側から突き破ってくるかのように出て来るのよ、痛みと流血を伴いながら」
そう、治そうと思っても、治る代物じゃあない。でも、
「いつまでも、その存在を主張し続けるそんな『記憶』だけど……ひとつだけうまく付き合っていける術を、私はここに来て掴みかけている」
自分の人格を分裂させてはダメ、別の人格に逃げ込んでもダメ、まあそれを武器にしてきた私が言うことではないかもだけど。
……ま、それでも、そんな「思考錯誤」でも、救われたとこ、あるんだってば。それでもって、たどり着く境地もあるんだって。しんとした空間に、私は臆せず言葉を紡いでいく。
「それは……『共有』。自分の内側で疼く『記憶のキズ』を、もう外側に晒しちゃうの。拡散。わかってもらえても、もらえなくても、かさぶたでも、膿んでグズグズでも、未だパックリ開いたままのキズでも、自分はこれです、っていうのを全部見せちゃえば、自分の中で燻ってる状態からは解き放たれるんじゃないかって、そう感じて来ている」
そう、それはたぶんそう。
「だからこその、この場よ。『格闘』はあくまで添え物であって、趣向を凝らしたDEPを戦略的に撃ち合って勝敗を決する場でもなくて、……お互いのダメを共有し合って、DEPとして拡散・昇華する、魂の浄化の祭典、それこそが『ダメ人間コンテスト』。……あんたも全部、さらけ出しちゃいなよ」
私はいつかのアオナギからの受け売りを、改めて自分の中で咀嚼してから、外へ向けて放ってみる。
顔を覆って崩れ落ちる里無。と同時に振り落ちて来る怒号のような歓声に、
……私はしばらく包まれている。