#075:絶望かっ(あるいは、セックス/アンド・ザ/ピストルズ)
<……第3ピリオドのお題は改めて『絶望』です……既知とは思いますが念のため>
ハツマが珍しく歯切れ悪い感じでそうのたまうけど。いや初耳。
だが「絶望」……対局相手、里無のキャラクターだとか佇まいにがっちり合致しているような気がしてならない。
黒髪のすだれの隙間から、初めて目が合った。基本能面だけど、その時だけその細い瞳が緩く歪んだように見えた。そして静かにDEPが始まる。
「……『カットする場所を定期的に確保するため、カミソリを腕に滑らせる心理状態の時も、切る場所をじっくりと吟味してしまう』」
!! ……少しそのDEPの意味を考えてしまった私だったが、里無が黒い全身スーツの左腕の袖をめくりあげ、さらに手首の辺りからベージュ色のでかい湿布くらいあるテープみたいなのを剥がしていくにつれ、把握してしまう。にやりと笑った顔は、だけど何となく強張っているように見えて。
細く白い腕に、赤い筋が何本も平行に走っていた。「場所を確保」と言っていたのは伊達じゃなく、「やりたて」と「治りかけ」が規則正しく順列していて、そういうタトゥーかとも見まごうほどに整然な、意図あるグラデーション。それがまた、静かな狂気すら感じさせて圧倒されてしまう。
<先手:91,301pt>
表示された評価点はおそらく今までで最高。でも観客席からは低いどよめきが戸惑いがちに、会場の低いところに向けてふきだまっていくだけかのようで。
今までにないくらい重い空気だ。そして私は、なぜ他の対局者にポジティブ人間が多いのか何となく分かってきていた。常人の観点からだとパッパラパーに見えるあいつらも、てめえの中のネガティブを、何とか笑い飛ばせる形にまで、真実を真実のままこねくり回して、何とか昇華させようとしているんだ。……例外はいるとは思うけど。
何でだ?
不幸自慢。ダメをその方向に突き詰めていくと、途轍もなくやばい負のスパイラルに陥ってしまうから。確かにそれを吐き出せば、評点は稼げる。
だけど、それがハツマとか、大佐が求める「ダメ」の形じゃあないんだろう。
だって大元を吐き出せていないじゃあないの。「不幸」の原点を。それじゃあ自分も救われないじゃあないのよ。
己の中のダメを吐き出して、共有/拡散することで、魂の浄化とかをするってアオナギが言っていた。
不幸を鎧うことで充足し、それを使って更なる不幸へエスカレートしていくようなのは、真逆だと思う。いわば里無は不幸の重課金ユーザーだ。はまりに嵌まっていった先は、考えたくもないけど。
似ているの? 昔の私? だったら精一杯、パッパラかましてやりましょうよ。そして、こいつも引き巻き込んで、消化アンド昇華してやる。
……私も追い詰められて飛ぶ寸前までいった女だ。完全に判るとまではいかないけど、寄り添えるところまでは行けるはずでしょ。
無課金ユーザーの掟破りの激烈「人格ガチャ」をとくと見さらすがいい……ッ!!
またもいい感じのメンタルにシフトした私の脳内に浮かぶ「拳銃」のビジョン。今回は特別にセレクトコインを使っちゃるわ!
奔放感ハンパ無くなってきた自分ルールに沿って、私は頭の中で回っている弾倉をぐいと掴み止めると、「12」と弾底に刻まれている「弾丸」を装填する。
実は各人格に名前も付けちゃったのよぉぉぉん、と恥ずかし紛れに、通常が恥ずかしい口調のヒトを真似してみるけど。
……「エウロパⅩⅡ」ッ!! 出番よぉぉぉぉん!!