#061:相反かっ(あるいは、アンビバ/THEザイ/大UP)
予選通過者が私以外全て元老……運営の息がかかった者との事実が判明した今、唯一の例外としての私がするべきこととは何だろう。
茶番、出来レース、八百長……そんな言葉が脳裏をよぎるけど、まあ、この世のほとんどはそんなもんよね、と私は妙に達観した感じで座席シートに体を預ける。
さっきも実感したけど、おそらくはイレギュラーな私を、全員全力で潰しに来るだろう。そりゃま、そうだ。でもさあ……それすら覆しちゃうから、「イレギュラー」なんじゃない?
「……」
私の天邪鬼的、B型気質がのんのんのんのんと頭をもたげてくるのを感じている。
総意に抗う、それこそがB型の存在意義。周りに言ってもちっとも賛同を得られないそのパワーワードを脳内にて噛み締める。
急速に、やる気が出て来た。と同時に、秘めたる(秘めてはいないか)野性と獣性が、私の表情筋から、人間らしさを奪っていくのを自覚している。
<04:知鍬 指名→ 16:水窪>
「さあ、続いての対局!! 知鍬選手VS水窪選手っ!! 互いに未知なる領域を残している両者のっ!! 注目の一番となりますっ……えーと、ですよね? あれ? 水窪選手の顔が……おか……ひぎぃっ……!!」
実況のハツマの声が恐怖か驚愕かだかで裏返るが、気にしている暇は無い。私はぐいと、対局相手、知鍬とかいう奴に視線を飛ばす。
「04」のシートは「16」の私から見ると、左10時くらいの方向だ。装置に設置されたサドル状の座席にあざとい内股で着座している小柄な人影。
若さ溢れる黒のポニーテール。メイク=ナチュラル。活発と清純が同居したような佇まい……狙っている。評点者の九割五分を占めるお兄様方のハートを、既にこいつは貫き倒していやがる……っ。
顔筋マックスの私に顔を向けて一瞬びくっとなったけど、流石は元老。す、と呼吸を戻すと、小生意気で整った小さい顔を、気持ち上げ気味にして微笑んで見せてくる。
黒のボディスーツに包まれた肢体は……やっぱ若いなこれ……思春期特有の硬さと柔らかさが共存したような絶妙な感じ……こいつぁ強敵だ。そして、
「……BET額の上回った、知鍬選手が先手/後手の決定権を持ちます!」
ようやく気を取り直したかに見える実況ハツマが、進行を促してくる。相手……知鍬は、どこか人を食ったような物言いで、じゃ先手ぇ、と軽い感じで決めてくるけど。
「第一ピリオドっ!! 先手番、知鍬選手、着手願いますっ!!」
そう言い放ったハツマの「映像」が、ふ、とかき消え、同時に照明が落とされ暗闇となった場内に、青緑色のレーザービームのようなスポットライトが、知鍬と私だけを照らし浮かび上がらせる。
「……」
にこりと、あざとさ満載の笑顔を作った知鍬が遂に着手……思わず身構えてしまうが、不意に、体のすぐそばに感じた気配に、意識を奪われてしまう。
周りには誰もいなかったわけだけど、いや、え? じゃあ今のは何なんだろ。早くも集中を途切れかけさせている私は、自分の中の異変にはまだ気づけずにいる。