#048:貫通かっ(あるいは、刈りそめのゲッターヒールHY)
<ああーとぉっ!! 水窪選手の動きが止まったぁっ!! これは、どうなる? 形勢っ!?>
実況の通り、急激に重さを増した私の体は、動かすエネルギーみたいなものが枯渇したような、意志はあっても動きに繋がらないといった絶望的状況に……陥りつつある。ハンガーノック……以前、雨ざあざあの時に走らされて、体温ががんがん奪われていった挙句に起こった症状にすごく似ている。つまり、頭ははっきりしてるんだけど、動けと指令を全身に飛ばせるものの、それに体が応答しない。
「……」
そんな私の目の前では、ガードの姿勢を解いたユズランが、勝ち誇った笑みで攻撃の構えを取るけど。片脚を上げる、独特のフォーム。
「随分と……勝手かましてくれましたわね。無垢な少女のマネで欺くなどと……してやられた感がハンパないのですわ」
結構キテる。あれは演技のようでいて、100パーの演技では無かったのよーというような世迷言が通用しそうな空気は、いまさら無い。
「腕と腹は『固定』されましたけれど、可動部が無事ならば問題ないのですわ。そしてようやく……私の蹴りが届く間合いに入れた」
ユズランは私にもう動く力が無いことを見越しているようだ。悠々と距離を詰めて来る。ようやく息は収まってきた私だけれど、俊敏な動きはもう出せそうもない。どうする?
「!!」
考える間も無く、下からの風圧。ユズランの一歩飛び込んでの前蹴りが、私の鳩尾あたりを確実に捉える。咄嗟に両肘で受けようとしたものの、緩慢な動きのその隙間をあっさりと蹴破って、鋭さを持った右踵が撃ち込まれてきた。
「ディフェンスアドバンテージ」……プラスオンの防具があって表面上は受け止められたその強烈な打撃だったが、それをも貫くようなミリ秒遅れての衝撃波のようなものが鳩尾に伝わって来る。
これ無かったら悶絶もんだわ、とそんなことを考えている余裕は、無かった。
「水窪ッ、上だ!!」
コーナーからのカワミナミ君の警告。しかしそれとほぼ同時くらいに、スフッ、みたいに短く息を吹いたユズランは、撃ち込んだ右踵を、そのまま上方へと高々と振り上げ、軸足の角度を少しひねり気味にステップで調整し終えていた。
「!!」
刈り取るような動きで来た。その上空からの脅威に、頭と目は反応出来たけど、かえってそれは恐怖の瞬間時間を否応増しただけであって。
重力も足されているだろう、その打ち降ろされたハンマーのような踵は、中途半端に上げた私の両腕のガードなんてあっさり弾き飛ばして、確実に目標を捉えに行った。
私のこめかみだ。
ヘッドギア越しにも、その鈍器でごつり、みたいな衝撃が易々届いてしまったみたい。痛さよりもそれよりも速く神経を遮断するような衝撃が、私の視界を黒く染めた。
……これは、マズい。気ぃ失ったら、終わって……しま……う。