★#031:完敗かっ(あるいは、あぐねりんぐワカクサ先生)
「もず! かっっつはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんっ!!」
諸々何の駆け引きも無く、初戦は唐突に終わりを告げたのですわ。
「後手番っ、着手……!!」
実況の黄色少女、セイナさんが何事かを焦った様子で私に向けて言い放ったのですけれど、対局相手が放った異次元言語に、数瞬の間、固まってしまっていたような状態だった私は、結局何もできませんでしたの。
<先手:6,221pt VS 後手:0pt>
電光掲示板にそのような表示がされていても、まだ漫然と座るばかりだった私のお尻に、次の瞬間、結構キツめの折檻電流が浴びせ込まれ、冒頭のちょっと形容しにくい叫び声を上げさせられながら、リングの中央に弾かれるようにして倒れ込んでしまいましたの。
「……まで、一手を持ちまして、崎本 カリヤ選手の勝ちとなります……っだよ!!」
実況少女の非情の声が響き渡り、私は敗北を悟るのですわ。ふと前を見上げると、カリヤさんは対局席に座ったまま、悪趣味なお顔をさらに変質させつつ、私を嘲笑っていたのですの。
このやろう……
ふ、と頭に去来した野卑な言葉に、私は自分で驚いてしまいますの。いけませんわいけませんわ。ケダモノ……いえ、本当にいけないのでしょうか?
「ねえさんっ!! ひとまず戻ってきてくれっ!! 次の対局までは少し間がある!!」
リングのコーナーからアオナギさんの声がかかり、頭の中がごちゃ混ぜのような状態になっていた私は、はっ、と気を取り戻して、そそくさとリング下に引っ込みますの。
「……ごめんなさいですの」
いえそんな事より、大事な初戦を、何も出来ずに負けてしまったことの方が問題ですわ。
「気にするな、水窪。はじめての実戦だったわけだ。面食らうのも無理はない。ここから修正していくぞ。まず、相手のDEPには過剰に反応するな。聞き流せばいい」
カワミナミ様は私の肩にガウンのようなベンチコートのようなものを掛けてそういたわってくださいますけれども。
「そうですぜっ、次はあねさんからガツンと撃っていってくだせえよ! とにかく、格闘まで持ち込めば何とかなるでやんすから!」
丸男さんも何かを咀嚼しつつ、そう労ってくれますけど。アオナギさんだけは深刻そうな顔つきを見せているのですわ。そして、
「相棒、悪いがジョリさんを呼びにいってくれねえか。おとといくらいに日本に帰ってきたっつーことを聞いている」
重々しい声でそう丸男さんにお願いしますけれど。「ジョリさん」とおっしゃる方は誰なのでしょう?
「お、おう、でもよ、今回は衣装が使えないんだぜ? ジョリさんに来てもらってもよぉ……どうしようもねえんじゃあ……」
丸男さんはそう口ごもりますの。
「かも知れねえが、何か打開してくれるかも知れねえ。とにかくこのまま行っても、先が見えているような、そんな嫌な予感でいっぱいなんだ。頼む」
アオナギさんの切実ですけど有無を言わせない口調に、何回か頷いた丸男さんは、どたどたと対局場を後にしていきましたの。
そんな不穏な雰囲気の中、第1ピリオドの全三対局は終了し、わずか五分の休憩を挟んで第2ピリオドの開始が告げられましたの。
……次こそは、無様な姿はさらしませんことよっ。