#020:形勢かっ(あるいは、本場所/本末/ほんとのところ)
国技館の裏手のほど近くに車を停めることが出来、緑青の屋根に金色の頭飾りを見つつ会場と言われたその場所まで歩を進めるのですけれど。
本当にこの地下に……? 確か、焼き鳥工場があるみたいなことはテレビで拝見したことはありますけれど、そこで行うとおっしゃるのでしょうか……
「焼き鳥作ってる所から、さらに地下に30メートル。そこが目指す対局場、『イアハノナノス=ドチュルマ国技場』。その名の通り、ドチュルマ共和国国技であるところの、ケチュラの全日本大会もそこで行われる、由緒正しき大会場だ」
ジーンズのポケットに両手を突っ込みながら、アオナギさんはやる気無さそうにお歩きですけれど、質問には律儀に答えてくださるのですね。
しかしドチュルマ共和国って……確かアフリカかどこかの国ですよね。そこの国技の全日本大会と。言ってる意味は全くもって分かりませんけども、私たちの他にも、ちらほらと女性を中心としたいくつかのグループが目につくようになってきましたわ。観光とは思えない、きびきびとした足取りで目つきも鋭くなってらっしゃる。これはよもや私の対戦相手となろうお方なのでは、と思うと、自然に私の背筋も伸びますわけで。
「なぁーんか、『格闘志向』のやつが多くねえかあ? 違うだろうがよぉ、『ダメ』はそうじゃあねえってのによぉ」
少し歩いただけですのに、丸男さんはかなりの汗をおかけになってらっしゃるわ。今日は「伊達」と大書された黒いTシャツをお召しになってますけど、もうすでに汗じみでまだらになってますのよ。
「『格闘志向』、望むところだ。水窪、お前は私が教えた基本を忠実に行うだけでいい」
カワミナミ様が私を振り返り、落ち着きながらも少し熱のこもった声を掛けてくださる。やりますわ、私はやりますわよ。
「……だぁから、その『格闘』まで行きつけねえんじゃねえかって、俺はそう危惧してんのよ」
前を歩くアオナギさんは、私たちの様子を呆れたかのような目で見やりながら、はあっと盛大にため息をつく。
「まったく、何のための逸材だったっつーんだよ。こんな、『ダメ』以外は使いようもなければ扱いもめんどくせえ凶暴酒乱どSクソ女をよぉ、さらに始末悪いもんに改造しちまってどうするつもりどへぃぃぃっくっ」
アオナギさんの右膝に、後ろから私の閃光のローが撃ち込まれましたことよ。私、およびカワミナミ様への暴言は、この右足一本に物を言わせてもらいますわ。
声も無く、前のめりに倒れ込んだアオナギさんを踏みまたぎ越えながら、いよいよ私たちは決戦の場、国技館の真ん前にやって来ましたの。
高揚する気分を抑え、私はそのどっしりとした構えを見渡す。何か大切なことを忘れてしまったかのような、得も言われないもやもやした気持ちが胸にずっとありますけれど、そこはもう気にせず、いざ出陣っ、ですのよ。