#173:容貌魁偉かっ(あるいは、プレステージな/乾坤一擲プリンセシズ)
……最大級奥義をもって、何だかよく分からないシメの対局は幕を閉じたわけで。
全長18cmの筒状の「アクセルボタン」の全てを体内にずんぬぷ、という手ごたえと共に呑み込んだあたりで、
「あぎょおおおおっ、鈍くッ、そしてえぐり込むような痛みがゆっくりゆっくりやって来て来てキテあはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
……との断末魔の絶叫を残し、謎の黒幕というよりは、ハツマの問答無用なフェロモン的なものに引き寄せられそして餌食となった、哀れなサクリファイスであるところの瑞舞の、全ての見せ場は終わった。
水色のキャンバスに、「激痛」をモチーフにした石膏像のように、瑞舞の体は横たわっている。それをリングの中央に何とか立ち上がった私は、何とも言えない顔で見下ろしている。
噛ませ犬未満の、その逆に華麗とも言えなくもない散り方に対し、私が無意識に取っていたのは敬礼の姿だった。表情に現れることは決してない無言の真顔だったが、奇妙な哀悼意があった……
またも綺麗にまとめようとしていた私だったが、身体は既に限界を二度三度となく超えてきているわけで、もうあかん、意識が、音速レベルで、遠の
「……」
「気付いたか、姐さん」
見慣れた天井。白く、そして穏やか。消毒薬の匂いのような、透明で清浄な空気を感じている。
例の「楽屋」なのだろう。そして私はいつもの簡易ベッドに横たわらせられている。終わったのか。そして私は、最終戦を完遂することは出来なかったと。アオナギの、自然な声色を鼓膜に感じ、私は何故かそう実感をしている。
「……」
不思議とネガティブな感情は胸の中には無かった。あるのは、何とか何かをやり遂げた感と、これから何しようかなという前向きな思考だけだった。
カワミナミ君の手を借りて、ベッドの上に上体を起こす。身体にはまだ黄緑色の……若草色のプロテクターと、黒の全身スーツを身に着けたままだったけど。
「よくやったミズクボ。勝ち、負け、……いろいろ言いたいことはあるだろうが、ともかくやり抜いたことに、私はおめでとうと言いたい」
珍しく感情のこもった声で、カワミナミ君。ええとあの……何か照れくさいんですけど。と、
「ゴールは出来なかったけどよう!! 何らかの措置は取られるんじゃねいかって、俺っちは思ってたりするん」
汚い丸顔を意気込んで近づけつつがなりかけてきた丸男の言葉はそこで途切れた。私が残るわずかなATPを消費して、人差し指をその脂肪に覆われた声帯へとさくりと刺し込んでいったからだ。まさらたうな、みたいな呻き声を上げ、その巨体はリノリウムの床に崩れ落ちていく。
ま、どうなってもどうでもいいのよ。
ジョリさんから、という差し入れ……「レモンライムジンジャーハニーソーダ」という、綺麗な小瓶に入った液体をくいと飲み干すと、身体にも熱量みたいなものが流れ始めてきたように感じ始めていた。さて、これからどうしよう。まずは……
かざみ、まだ会場にいるかな……? と、ベッドから降り立った私が、出口へと向かおうとした瞬間だった。
「若草お姉さま……しばし、お時間をくださいな」
ちょうど外からこの部屋に踏み込んできていたのは、ハツマ アヤ……だったわけで。髪は後ろに流して結わえ、男物のタキシードに身を包んでいる。そして両脇には同じような格好をした、島大佐と塗魚ことかざみを引き連れていたわけで。
……どうしちゃったっていうの?