#170:励起光かっ(あるいは、ON→OFF/怯懦/アトミコス)
とにもかくにも。
「……」
「危険な橋」。そいつをまずは渡り切るだけだ。残り「300万」がとこ。その心もとない額を何とかうまく使って、野郎を出し抜く算段は無いのか。
先ほど私が食らったのは、奴の「右掌」と言っていた。その像を、何らかして「巨大化」させ、それで私の身体を払ったと。
やりたい放題だな。だけど、そんな横暴がてめえの首を絞めるってことは、往々にしてあることだからよぉ、せいぜい気をつけな?
「この最後の攻撃で……あんたを屠る」
虚勢だけは人一倍の私は、この窮地に及んでもそんな強メンタルを保つことが出来ている。いや、虚勢じゃあない。私に寄り添うようにして側に立っていてくれる、五人の「世代人格」たちと共に、私はニュートラルなメンタルで、自分の両脚で、しゃんと立つことが出来ている。
何度も思ってることかも知れないけど、小難しいことを考えんのは、もうやめだ。とにかく野郎を伸す。伸す伸す伸す伸す伸すNoooooooooっす!!
ぐっ、と顎を引く。ここ一番の、でんこうせっかな一撃をキメてやるっ!!
私は上体を降ろし、クラウチングスタートのような体勢を取ると、両膝の力と、謎の推進力のベクトルを合わせて、目測10mくらいの上空……瑞舞の元へと、再び弾け飛んでいく。
<最後とのたまったからには、何か頭使ったことをやってくると思えば!! 浅はかだよ水窪クン、これで終わりだッ!!>
板についているテンプレ台詞と共に、瑞舞が今度は体の内側から外に払うようにして、その「巨大化」した「右掌」で突進する私の右側へぶつけてくる。
「!!」
またも凄まじい衝撃。先ほどより垂直方向に飛んでいた私は、瑞舞とちょうど目の高さが合うくらいの所までは達していたのだけれど。その「平手」の直撃を受けて、リングの外まで吹っ飛ばされていく。
<ああーっとぉ!! 水窪選手ッ!! あえなく跳ね飛ばされてしまったぁぁぁっ!! どうする? どうなる?>
実況が戻ってきたかと思ったら、ハツマの声だった。何か、含み笑いをしてるかのような声色。
<何だぁ? ハツマ アヤぁ……まだいたというのかい? んん? おめおめと逃げ去ったかと思ったよぉ。もしや私とよりを戻したいとで>
<ケツヲ……サイテ……ハナハ……サイテ>
瑞舞のまだ分かってないそんな呑気な言葉を封殺するかのように、ハツマの短いけど狂気に彩られた掠れ声が響く。それ私の技ー。吹っ飛ばされながらも、結構私は余裕だ。そしてそのまま、余裕をもって野郎に告げてやる。
「……私が吹っ飛ばされていくこの『経路』を何か把握しているか? 他所者のあんたには、どこがスタートで、どこがゴールかも判別できてないんじゃあないか?」
<……ああん? 何だぁ? その遠吠えはぁぁぁぁぁっ!?>
顔を歪め、わざとらしく耳に巨大な右手を当てている瑞舞だけど。そんな手品あったよね。いや耳と手が逆か。いやいや、余裕すぎんだろ、私。
その瞬間、ぴろーんと間の抜けた効果音が鳴って。そして、
<水窪選手ッ!! 『第3チェックポイント』を一位で通過ッ!! よって、『1億ポイント』が加算されますッ!!>
嬉しそうな、そして瑞舞をあざ笑うかのような、それでも得体の知れない魅力に満ちたハツマの実況と共に、私は私に莫大な「残金」が付与されたことを確認する。
「……そうだ。『1億』を得るための、これが私の『最短経路』だ」
今日いちのキメ台詞と共に、私は「アクセルボタン」を貫けとばかりに押し込み入れていく。