#166:予想外かっ(あるいは、仰ぐのって、尊い……)
上空へと跳ね上がり打ち上がる、私と大佐。軸の回転も足して、私は天地真逆となったバスターを「木星」に着座することにより完遂させる。衝撃。そして、
ぐッ、と短い呻き声を上げつつも、大佐はひと仕事をやり終えた感で、それでいい、と私の耳元に囁いてくれた。かけていた技を外した瞬間から、今度はゆっくりと二人の体は真下のリング向けて浮遊感のある落下を始める。
奇妙な微笑みをもって、大佐は仰向けで両手両脚を投げ出したまま、まるで透明度が過ぎる水の中に揺蕩っているように見えた。
わざと喰らってくれたのか。でもしかし「黒幕」とは? 「正統」「造反」がほんとはまだ生きているとでも言うのだろうか。だとしたら、「正統」大佐の敵は「造反」? まさか、かざみがやっぱり、とかじゃないよね。
ハツマが裏で糸引いてたとか? まあ取り仕切りはしてたみたいだけど。さっきやられたのは、フリか? それすらシナリオ通りだったと?
結局、どれも釈然としない答えのような気がする。不気味な静寂。ダイバルの実況も止んでしまった。いやまさかあのハイテンション姉ちゃんが? うーん、でもあんまり絡み無かったし、今更ラスボス的に出張ってこられてもこちらの対応も難しいというか……
詮無い考えは、休むに似たる。とにかく、この「レース」を完走してみようか。話はそれからかも。
私の身体も実は限界だ。先ほどまでの熱を持ったハイ状態は既に終わりを告げ、だる重さが全身を覆っている。でも力を振り絞って、大佐のままなってない体を抱きとめると、そのまま「低重力」に身を任せ、足からゆるゆるとリングへと落下していく。
これにて決着。……でも、まだ終わってはいない。そうよね?
私の目で語った言葉に、軽く頷いた大佐は、力無い仕草で、自分の被っていた軍帽を私の頭に置いてくる。何かを託された感はあるけど、これ結構なかさばり度あるのよね……先ほどのバスターの時もえらい邪魔だったし。そして重量もかなりのもんだな。
まあ、受け取っておくわ。水色のキャンバスの中央部らへんに降り立つと同時に、大佐は満足したように目を閉じたけど。普通のかっこしてれば超絶かわいいのにねえ。
リングの片隅に大佐の体を横たえると、私は「ゴール」の方向を再度確認し、「アクセル」を使って飛び立とうとする。残りは、約10kmってとこか。
その時だった。
<……っは! っは! っは!!>
空間に響き渡る男の声。初出……誰だ?
<……いやぁ~はっはっは。これまたおもしろい人材が、よくも盛り上げてくれたもんだぁ、流石だよアヤ=ハツマ。だが!! それも全て含めて!! この私がブチ壊してくれるわぁぁぁぁぁぁっ!!>
テンプレ感漂う、ダイバルといい勝負のハイテンションボイスのおっさんが、そうイキりのたまうのだけれど。
わかりやすいの来たなぁ……大体、こういうのに収束するのが、このダメ界隈での茶飯事ではあるのだけれど。
……わかりやすいって、素晴らしい。
私は全表情の抜けた今日いちの真顔で、場に起こるわかりやすい展開に身を委ねようと早くも決断している。