#165:唯物論かっ(あるいは、情熱相対/マキシマム放物線の彼方へ)
観念したのか、とっくに抗う気力体力を失っていたのか、左手で相手の真っ赤なプロテクターの奥襟らへんを、右手で相手の左肘辺りを掴んでも、大佐は大した抵抗は見せなかった。
じゃあまあ最後、いっちょでかい花火を打ち上げますか!!
割といい感じに吹っ切れ気味の私は、意味不明の笑みを浮かべながら、大佐の右肩に自分の頭を潜り込ませていく。しかし、その時だった。
「……気を付けて。これで終わりじゃあない」
大佐の聞こえるか聞こえないかの囁きが、私の耳にかろうじて届くけど。その押し殺しているけれど、こちらを気遣うような声色に、え? と顔を上げて聞き返そうとしてしまうけれど、そのままで、と短く制される。
「……『黒幕』がいる。この『女流謳将戦』を乗っ取り、またも暴虐の限りを尽くさんとする『黒幕』が」
大佐……一体あんたは……どゆこと?
「ハツマと共に。すべては」
謎の言葉を残すと、私の疑問や疑念も置き去りに、大佐はまたも短く「やれ」とだけ私に命ずる。意味は分からなかったけど、そののっぴきならなさだけは引き取った。そしてこの後にまだ、その「黒幕」との対峙が控えているということも。
大佐……あなたは「何かのため」に此処にいた。「何かのため」に戦っていたと、そういうわけだったのね。裏に何があるかはわかりゃあしないけれど、私もあんたと戦えて良かった。詳細は不明だけれど、あんたの意志は私が継ぐ。
……そのための。
そのための、これは餞じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
<ああーっとぉ、やはり最後はコレなのかぁっっ!? 水窪選手、島選手の体を逆さまに持ち上げ、その両脚を割り広げていくぅぅぅぅぅっ!! しかし自らのたまっていた通り、このリング上は『低重力』ッ!! 威力は半減どころか10分の1ほどになってしまいそうだがッ!?>
ここに至って、手加減をしてしまえば「黒幕」に感づかれる恐れが出てきている局面と私は推測した。なので大佐には悪いんだけど、当初の予定通り、最大級の技にて屠らせてもらうわ。ごめんね、後で何かおごるね。
「『大地』はこのキャンバスだけに非ず……星の流れるこの空間だからこその『大地』へ、いま、砂塵巻いてテイクオぉぉぉぉフッ!!」
自分でも言ってる内容は相当に濃度高めのヤバさを醸してることは分かってたけど、口をついて出た言葉と共に、私は謎の推進力、右手の赤の「アクセルボタン」を限界まで押し込んでいく。
「!!」
ふわり、一瞬浮かんだ後は、ありえないほどの急加速をつけて、私と抱え上げられた大佐の体は、遥か上空目掛けて垂直に撃ち出されていった。そして、
上空には、巡り巡って「木星」を模したような巨大な惑星が、また流れて来ていたのを先ほど上目遣いで確認していたわけで。
「おおおおおおっ!! 『昇技! アルティメット若草s1080°煩悩開脚花弁大回転! NEOPPIROGE MAN 29 バスター 平成最後のNATSU★しちゃってるガーイ2018』ィィィィィィ!!」
<っん長ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃいっ!! そして、何!!>
ダイバルの絶叫の中で何かを行うということが飛躍的に多くなってきた今日この頃。私は凄まじい勢いで上昇する体を思い切り横に振って体勢を逆転させていく。すなわち大佐が下に、私が上に。
なぜか? それは、
着弾点を、頭上の「木星」へとするためだぁぁぁぁぁぁぁ!!