#163:門外漢かっ(あるいは、残影/魅せるは/アストラル)
私の過去の「幻影」たちは、VRが見せているものなのか、私のバグり気味の脳が見せているものなのか。
それは分からなかったけど、私には、私にだけは確かに見えているというその事が大事だと思うわけで。私は独りじゃない。頼れる「仲間」が5人もいる。私のリボルバーは……六連装だぜぁぁぁぁあっ!!
そんな不可思議な万能感に包まれている私。その対面で、ふいを突かれてボディと膝に打撃衝撃を喰らわされた大佐は、リング上で一呼吸くらい動きを止めてしまっていたけど。
私の方も、満足にはもう動かない体に「アクセル」という名の謎の推進力で何とか鞭打つと、前へ前へと一歩、二歩とよろぼい出ていく。
「……!!」
そこに放たれてくる大佐の右。でも右膝のダメージは結構なものだったみたいで、踏み込みが甘いからさほどの速度も威力も感じない。
紙一重の軌道を見切った私は、前方への推進力を開放すると、目を見開いたまま、眼前に突き出された拳にヘッドギアを擦らんばかりの絶妙な位置取りで、ゼロ距離まで進み出る。至近距離で見合う、目と目。攻撃的で、感情の宿った大佐の目。初めて見たかも。いいよ。そんな風に、全てをぶつけて来ぉい!
オープンユアハート、魂の、浄化の祭典なんだろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?
「!!」
勢いそのまま、大佐の細くきめ細やかな首筋を左腕を使って巻き込むと、右手で腰の辺りをしっかりと掴む。これでもう満足なパンチは放てない。大佐の美麗な顔が少し歪む。
……こっからは、無酸素の泥沼だぁぁぁぁっ!!
コンパクトに腰を捻り、私は右膝を大佐の左脇腹向けて撃ち込んでいく。何度も、何度も。
「くっ!!」
遂に苦しげな声が漏れてしまう金髪美少女だったけど、左肘で直撃は巧みに防いでいる。やるぅ。
けど。
「……『かざみと一緒に作った楽園の住人になりきるため、『ソォニャ』という別人格をたまに発現させていたけど、そういうのを一切解さなかった母親に、騙されるようにして割とマジな診療科に連れていかれたこと』」
私のDEPは、宇宙だ。ダメだったエピソードなんかはなぁ……無尽蔵に出て来るんだよぉぉぉぉぉっ!!
「く、う……っ!!」
ガードしていた左脇とは逆の所に「DEP衝撃」が突き刺さり、さしもの大佐も体を横に折ってしまう。「DEP&格闘」。それがこの「女流謳将戦」のキモだったはず! 私は……基本に立ち返っただけよ。
渾身の左膝を放ってくれていた12歳の私の像は、何故か左目を含む顔の半分くらいを包帯で覆い隠していたけど。何か黒革のチョーカーとか、十字が散りばめられたゴシッキィな黒服に身を包んでいたりしたけど。
ナイスとしか言えんわー。ほんの刹那、無防備を晒した大佐。ここでキメる!!