#162:明文化かっ(あるいは、新手の/バイミー/使い勝手ディモールト良しッ)
水色のキャンバスの上、オーソドックスなスタイルにて私ににじり寄って来る大佐の動きが、スローモーションが如くに感じられている。これあの事故の瞬間とか、走馬燈界隈に起こり得る諸々だよね……もうここまでか。これで終わりなのか。私の思考は諦観に埋め尽くされそうになっていくけど。
その時だった。
「……『副社長の訓示の時に寝こけた挙句、喘ぎ声にほど近い寝息と寝言で会議室の温度を零下69℃くらいまで下げた』」
自然と口から飛び出ていたのは、そんなエッジの利いたDEPだった。え?
「!!」
瞬間、私の視界には、ちょっと昔の……髪これでもかのショートだった時のスーツ姿の私の像が浮き出し、渾身のリバーブローを大佐に向けて放っているのが確かに見えた。幻? いや、でも大佐の身に着けた紅いプロテクターの脇腹辺りがさらに赤く円く光り、そこに衝撃が発生したことを物語っている。
振り向いた私の……24歳の私の像は、一瞬振り返っていい笑顔で親指を立てると、次の瞬間にはかき消えていた。
初めて見せる驚愕の表情の大佐。当の私は、自分が左手に握り込んだ青い「着手ボタン」を無意識のうちに押し込んでいたことに驚いていたりする。
……でもそうか。そうだよ。私は独りじゃあない。
「……『ネイティブデビュー出来ないかなと画策して、必死でそれっぽく聴こえる発音を練習したけど、リアルなネイティブが同じクラスにいて似非って看破された挙句、『舌先三寸女』という、またしても和名な渾名を頂戴した件』」
続いて飛び出したのは18歳の私。いい踏み込みで完璧な角度の左ローを的確に大佐の右膝の正にのジョイント部に着弾させたのはいいんだけれど、金髪+ブルーグレーのカラコン、カウボーイハットに首には赤いバンダナ、革のベストにタイトなミニスカ、膝までのV字ロンブーっていうスタイルは、どんな虚構の世界を探してもそうはいないほどの間違ったカウガール感が盛り盛りなんだけど。
あの出で立ちでキャンパス通えるメンタルの強さ……それだけは見習いたい。いや、見習ってはいけない何かは確実に醸し出している。やっぱダメだ。
……とんだフルアーマー=ハロウィンガールも、こちらを傲岸そのもののにやり顔で見てきてから親指を立ててくるけど。貴女はさくっとかき消えてー。
<ああーっとぉ!! 絶対的窮地と思われた水窪選手がッ!! 起死回生のDEP連打だぁぁぁぁぁっ!! これは埒外っ!! 無防備な所に貰ったか島選手っ!! 動きが止まってしまったぁぁぁぁぁっ!!>
実況ダイバルのやっぱり耳に来るそんな絶叫混じりの声を鼓膜で受け止めながら、私は「アクセルボタン」を半押しくらいの状態にしたままで、今度はこっちから間合いを詰めていこうとしている。