#161:無理筋かっ(あるいは、配られた/カードの名は/執念)
やっぱり「格闘」に関しては大佐の方に分があるようだ。背中から組み付かれただけだけど、動きが全然ままならない。後ろに向けて肘を振ったりしてみたりするけど、思うように力も入らないし、巧みに避け防がれたりで、要はうまいこと極められている。しかもそれだけじゃあ無かった。
双方の身体は宙に舞ったままだったけど、その空中で背後の大佐はとんでもないことを仕掛けてきそうな気配が。相手の頭が私の左腰辺りに密着しながら移動したのを感知したけど、やっばぁぁぁぁぁい!! 瞬間、感じる浮遊感。いや浮いてはいたんだけど、それプラスの。
「!!」
<出た!! 空中で相手を受け止めての!! そのままバックドロップぅぅぅぅぅぅぅっ!! 超々高角度ッ!! もはやこれは180°逆さまの体勢からの、通常あり得ないだろう、ご当地=究極技だぁぁぁぁぁっ!!>
思い出した頃に入るダイバルのテンション高めの実況に辟易しつつも(『ご当地』って何だよ)、事態はその描写そのものをなぞっているわけで。思い切り弓なりに反っただろう大佐に、あっけなく空中で引っこ抜かれるように持ち上げられると、そのままアーチを描いた私の身体は、正に真逆までひっくり返されながら上空からキャンバスへと頭から突っ込んでいってしまう。嵌まった。完全に嵌まった。
頭だけは……っ!! と、必死に、顔が臍に届かんばかりに首を丸め、両手を巻き付けて耐ショックに努めることしか私には出来なかった。
「……!!」
両肩から続いて後頭部へとゴドドと来た衝撃。私と大佐の体重が加算されているそれは結構かなりのもので、後ろでんぐり返しのような格好でキャンバスにうちぶせに投げ捨てられてもまだ、首から背中にかけて痛みというか痺れのようなものが取れないまま、倒れていることしか出来ない。
歯はしっかりと食いしばっていたものの、口の中には血の味が広がってくる。今日いちのダメージ。気を抜くと疲労が背中の方から覆いかぶさってくるような限界の身体の芯の芯まで今のは効いた。動けない。でも……動かなくてもいんじゃない?
……このまま目をつぶってれば、すぐにでも意識は飛んでしまいそう。楽になれそう……そんな誘惑が、何故か天使姿のハツマの像をもって私に微笑みかけてくるけど。
右手親指は勝手に「アクセル」を押し込んでいた。それと共に身に纏った黒の全タイと若草色のプロテクターが私の身体を起き上がらせるかのように収縮する。機構は未だもって分からなかったけど、それを取っ掛かりとして、私はキャンバスに膝を突いてから立ち上がる。
「……さすが」
眼前で腕を組んで待っていた大佐は余裕の体でそう言ってくるけど。何か楽しそうね。こっちはもうガタガタなんじゃい。
「アクセル」を使用した奇襲、それは結局向こうも使ってくるからダメだった。
打つ手……無しか。私はゆっくりとこちらに向けて間合いを詰めて来る大佐の姿を認めつつも、構えの姿勢を取る事もできなくなっている。